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「じゃあ……、少なくとも十歳までは力を使える状態ではあったんだ」
「そんなに強い力を持っていたのに、育成失敗って……。それも、自ら封印して使えなくしてしまうなんて……一体、何があったの?」
(生母に、……存在を全否定されて絶望したのだろうな。母親は、回復師が石の卵を得た日に、自死している)
「なっ……」
ハイシロが口を両手で押さえた。虚無と絶望を湛えた無表情の赤子……。生みの親に厭われたが故の、あの表情だったのか。
「回復師の能力なんて決して仇を成すものではないのに、なんでそこまで嫌われたんだ?」
ツキシロが眉根を寄せてつぶやいた。精霊は鎌首を揺らした。
(知らぬ。そこまでは聞いておらん)
「……ニンゲンとして生れてくる運命だったのなら、生みの親に愛してもらえたのかもしれない。それが、彼女の願望だったのかな」
「………そんなの、切ないよ。それに、そんなの今のフレアには関係ないじゃん」
ハイシロは精霊を見上げた。
「今、そのギフテッドの回復師は、私が産みなおして、ツキシロがフレアという名前を付けて、二人で育てているんです。でも、異能を閉じ込めた封印は強固にこびりついたままで、今も回復師の力は使えません」
(うむ。状況は、把握している。女神は、聖域の夢見草が復活すれば満足だから、以降の回復師の身の振り方に付いてはいつも頓着しない性質なのだが、今回は、育成に失敗した挙句ニンゲンにもなじめない回復師を、ずっと見守っていたらしい。だが、まぁ……いかような運命に見舞われたのを知ろうとも、介入は出来ないがな)
「どうやったら、アレを取り除けますか?」
絞り出すように、すがるように、ハイシロは精霊に問うた。
(まずは、フレア自身が、封印の存在に気が付くこと。気付きさえすれば、分離は容易だ。後は、封印を消去することをフレアが選択するかどうか)
「今、フレアは自分に力が無いことを悩んでいます。そりゃそうですよね。借り腹であることは話してありますが、……私から生れたんですから。分離を、消去を望まないという選択肢は無いと思います」
(さすれば、回復師が封印の存在に気付いたら、我の元に寄こすがいい。きれいに取り除いてやろう)
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