持たざる者

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持たざる者

「お母さんは、玄の民なんだよね? どうして何の力も持ってないの?」   友達の、悪気のない言葉が胸をえぐった。それは、わたし自身が何度も母たちに問うて、何度も悲しい顔をさせた言葉だった。  悪気のない、無垢で素朴な疑問こそが、一番深く傷つける。  この痛みは、こんなわたしでも大切にしてくれる母たちへの贖罪だ。 「さあ……どうしてなんだろうね。わたしにもわからない」  その手の疑問を投げられるたびに、わたしも母たちと同じ言葉を投げ返す。  この国では、母たちは高次能力者として知らぬ者はいない存在だ。それゆえに、わたしが好奇の目にさらされることを慮って王宮内で教育することを提案したのに、官舎や宿舎の子たちと一緒に学校に行きたいと希望したのは、わたし自身だ。  物心ついた時、母たちから直接血の繋がりはないことを告白された。おまけに何の力も持っていないのであれば、やがて王宮の庇護からも外される。そうなった時、全く外の世界を知らないと苦労する。そう思っての決意だったが、早速の洗礼にさらされて心が折れそうだった。 「しんどくなったら、おいで」    学校医のシロネリ先生やカウンセラーのキナリ先生は、学校帰りに診療室に寄るように声を掛けてくれたけど、誰に何を話したところで状況が変わるわけではない。まわりの好奇の目が飽きるまで、耐えるしかないと思った。勉強自体はとても楽しかったから、机に向かっているときは全部忘れて集中した。
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