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「やっぱりこういう話ができるっていいね。職場と家を往復するだけになっちゃってるし」
「僕もですよ。誰とも話さない日もよくありますよ」
「これからもちょくちょくこういう会開くのがいいんじゃないですかね?」
さんせーい、と何人かが声を合わせる。俺ももちろん賛成だ。この世間の混乱が収まらない以上はこういう機会はあった方がいいし、仮に収まったとしても、こういう機会はあっていいと思う。
「コロナが収まったら、オフ会もいいですよね!」
「お、オフ会やります? 場所取りならやりますよ」
「皆と会えるなら遠出してもいいかもしれないですね」
なるほど、オフ会という手もあったか。とはいえ。
「うらやましいなあ。俺はちょっと遠すぎんだよなあ」
残念ながら俺が住んでいる場所は辺境も辺境なわけで。なかなか人が集まれるような場所に出て行くのも難しい。ただ、可能であるなら顔を合わせるのもやぶさかではない。こうやって話のできる相手なら、面と向かってもきっと上手くやれるだろう。
ウイスキーを一口舐めたところで、不意に、スピーカーから少し低めの声が聞こえてきた。
「楽しんでる、……さん?」
言葉の後ろに微かにかすれて聞こえたのは、ひとりのハンドルネームだ。名前を呼ばれたのは黒猫のアイコンの彼女。「はえっ」とちょっと間の抜けた声を上げた彼女は、すぐにはきはきとした声で答えた。
「もちろんですよ。皆さんとおしゃべりできて、楽しいです」
そういえば、彼女がいつからか話に加わっていなかったことに今更ながら気づいた。すぐに返事をしたことから、席を外していたわけでもないだろうに。
「ならよかった。さっきから黙ってるみたいだったから」
「皆さんのお話を聞いてたんです」
「あ、オフ会やるなら来る?」
「もちろん今の状態じゃいつになるかはわかんないけどさ」
「このメンバーなら誰が来ても楽しくやれそうだよね」
「そうそう! 上手い飯屋知ってるからさあ」
そのまま、ぽんぽんとあちこちから言葉が飛んでくる。だから、誰も気づかなかったのかもしれない。黒猫の彼女が、問いかけに答えていなかったことを。
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