独白

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その日は暗い雨がずっと降っていた。 まるで世界が彼女の喪失を悲しんでいるような、この世から太陽が消えたような、そんな灰色だった。 困ったような笑顔、鈴のような声、 形の整った輪郭に、すらりとした指。 一瞬たりとも君から目を離すのが罪のようで、ずっとずっと君を見ていた。 だから君が死んだなんて、そう聞かされた時の僕の気持ちがわかるだろうか。 きっとなにかの悪い夢で、僕に君のことを諦めさせようとしてる悪い狼がついた嘘なんだ。 だって君は今もこうして”いる”のにね。 最近声をかけても避けるし、僕と目を合わせないようにしてただろ? もちろんちょっと冷たい君も素敵だよ。 みんなには笑顔を振りまくくせに、僕にだけは氷のように鋭く冷たいんだ。 きっと特別なんだ。 それに今日は結婚式の日じゃないか。 このオートクチュールの純白のスーツも、 真っ白なバラの花束も、すべては君のためにある。 黒い死神たちはもういないよ。 こんなめでたい日に黒い服なんて、あいつらはきっと頭がおかしいんだ。 あぁ、こんなに土をかけられたんだね、可哀想に。 苦しいよね、今出してあげるからね。 初めて、君に触れられた。 陶器のような白い肌に、伏せられた長い睫毛が、僕の手に触れた。 鼓動が早くなる 僕はきっとこの日のためにうまれてきたんだ 汚い笑みがこぼれる口を拭い、抱きかかえた君は天使のように軽かった。 さあ行こう、もうすぐ愛が報われる 降りしきる陰雨に傘もささず、まるで虹のふもとを目指すように、幸せそうな男が愛を口遊ながら歩いた。 近くにあったボロボロの教会で、神父にみたてた ”それ” に合図をする。 2人だけの結婚式に客は邪魔だ。 だから”それ”が居なくなって始めて、僕らは結ばれる。 バージンロードを一歩、一歩、愛おしさを噛み締めながら進む。 なんて誇らしい気持ちだろうか 祭壇の前で彼女を倒れないように抱きしめ、 ”それ”に促す。 「し、新郎------、あな、たは、ここにいる--- を病める、時も、、健やかなる時、 も、富める時も、貧しき時も、 つ、、つまとして愛し、敬っ て、慈し、むことを、誓います、か、、?」 はい、誓います。 「おれは、、っ、俺は!許してくれ!! わるかったよ、でも、でもフィアンセに、、、エレナに、もう酷いことはしな 煩い パンッとかるい音が響き、赤いフラワーシャワーが僕らに降り注いだ。 白い薔薇は真紅に染まり、僕の愛を祝福した。 誓いは結ばれた。僕の愛が勝った。 なんて、なんて幸せな日なんだ 目をそらす君にそっと口付けをした。 「それで? コーゼル、お前自分が何をしたのか分かっているのか?」 ええ、それから僕らはずっと幸せに暮らしていました。 「遺体を辱めて、継ぎ接ぎだらけにすることが幸せだと? お前は人の命をなんだと思っているんだ!!」 それでも彼女は綺麗でしたよ。 そして僕の愛はやっと報われたんだ。 あの日と同じような灰色の中、男が汚い笑みをこぼし、口を拭った。
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