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01 月夜の窓辺にて
欠落を受け入れることは難しい
欠落した者にしか分からない視界がある
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――夜は、しずか。ひんやりとした深い青色の闇が心地いい。
車椅子を窓の外に向ける。敬虔なシスターを真似て両手の指を組み、まんまるな満月に向けて祈りを捧げる。おかしな日課。誰かに言われて始めたことだったけれど、心を鎮め、一心に祈りを捧げていると不思議と心地よくなってくる。
別に宗教に殉じているわけではない。ただのファンタジー小説の影響だ。けれど、祈りにファンタジーも現実もない。祈りは祈り。想いは想い。強い願いが現実を変えるのは、どこの世界だって結果的には同じはず。
「魔王さま魔王さま……どうか私を異世界に召喚してください」
窓の外で、眠そうなカラスが首をかしげる。ばかな内容だろうと、祈る権利はある。誰にも私の純粋で純真な祈りを咎める権利はないのだ。
目を閉じ、車椅子の上で、じっと祈り続けていたら、不意に月が陰った気がした。目覚めるように瞼を開けると、奇跡のように美しいいきものがいる。
「あ――……」
――――そのひとは、夜が人型になったような、底なしの闇を纏っていた。黒髪に黒セーラー服と日本刀。空から降ってきて窓辺に立ち、黒く澄んだ美しい目で、王侯貴族のように私を睥睨している。
私は、魂が抜けている。魂が抜けた私に、そのひとは力強く言ったのだ。
「――――お前が、犯人だ。」
事件は、解決編から始まるらしい。けれど私――小倉リコは、自信満々に、まったく別のことばを口にする。
「あなたは――――異世界から来た暗殺者ですね?」
「……何?」
その人が、怪訝そうに顔をしかめるのを見て、私はようやく正気に戻る。
「な、なんでもないれす」
おかしなことを言った。
言って、しまったのだった。
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