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まるで母親の小言のようだが、毎度の事なので慣れたもの。
もちろん綺麗さっぱり聞き流す。
「そのうち来るだろ。……来ない方がいいのかも知れんが」
問題が起こったのは閑古鳥が踊り疲れたその日の午後。
そろそろ事務所を閉めようかという時刻になって、来客があった。
「ここって困りごとを解決してもらえるんですよね?」
もとより来客の予定などない。――どうやら飛び込みの依頼のようだ。
この事務所はあまり積極的に広告を出しているわけではないが、月に数回は飛び込みの客がある。
依頼内容によってはそのまま仕事を受けることもあるが、ごく稀である。
そもそも業務内容が特殊なので閑古鳥がダンスパーティーをしているのが日常。
今は狭い事務所に甲高い女性の声が響いている。
――その声は年若い。
香苗が対応しているが、応じる気のない達也は知らんふりで寝ころんだまま、まるで猫のように聞き耳を立てている。
「白い着物の子供の幽霊が出る呪われた家なんです」
「そうですけど、うちはお祓いは専門外なんですよ」
この言葉は何回目だろう。先程から同じことを繰り返している。
香苗と甲高い声のやり取りに達也は細くため息をつく。
(白い着物の子供ねぇ……拝み屋と勘違いしたこういう飛び込みの客が来る)
「ここは困りごとを解決する会社でしょ? 子供の幽霊が出て本当に困ってるんです。お願いします」
「それはそうなんですけど……」
香苗を責め立てる声に気の毒になって達也はのろのろと起き上がる。
(何度説明しても埒が明かない、か)
香苗の肩越しに見たのは幼さの残る顔。
幼いと言っても十代半は過ぎている。どこかで見覚えのある制服。長い黒髪を一つにまとめている。どこにでもいそうな普通の女の子だ。
「お嬢さん。残念だがうちは拝み屋じゃないんだ。幽霊のお祓いはしない」
困り顔の香苗の後ろから達也が口添えしてやる。振り返った香苗が肩の力を抜いたのが分かった。
「でも、困りごとを解決してくれるんでしょ?」
「そうだが。原因が分かってるのならそっちの専門家に相談して解決してもらった方がいい。ここは原因が分からない困りごとを調査して解決を手助けする会社だ」
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