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「じゃあ、調べてください」
「断る」
拒絶する言葉に気色ばんだ女の子に達也はにべもない。
「一人で来たのか?」
「見たらわかるでしょ?」
達也は不機嫌そうに鳶色の目を眇めて飛び込みの依頼者を見る。
改めて確認すると、シンプルな白い半そでのポロシャツに紺のプリーツスカート。背中にはかわいらしいぬいぐるみのぶら下がった水色のリュック。
(どう見ても学校帰りの高校生か。新手の冷やかしか?)
「ここは原因の分からない困りごとを調査するってなら、調べてください。うちは幽霊が出る呪われた家なんです」
今度は勢いよく頭を下げられて香苗が眉根を寄せた困り顔で見上げてくる。
切羽詰まった様子は伝わるが、達也は険しい顔のまま首を振った。
「そうだとしても君から依頼は受けられない」
達也はため息混じりに答える。にべもない態度に香苗が睨んでくるが見なかったことにする。
(そもそも、大人の問題だ)
「見たところ君は一人のようだが、どう見ても学生だろう? 困りごとならまず家族と相談することを勧める。その上でしかるべきところへ依頼するべきだ」
「だけど……!」
淡々と応じる達也に女の子は両手を握りしめて言い募るが、首を振るだけ。
「それでも依頼先が見つからなかった場合は、相談に乗ってやる」
しぶしぶ引き下がった下がった女の子を見下ろして達也はため息をつく。
(……こればかりは仕方がない)
しぶしぶと引き下がった女の子を見送って元の位置に落ち着いた。
「――――」
達也の対応に納得がいかなかったのだろう香苗が入れてくれた茶はひどく苦い。一口すすって露骨に眉を寄せた。
茶と言ってもこの事務所では基本的に出てくるのは香苗の趣味の紅茶だ。
しかし本日の紅茶はそれとは思えないほど濃い。まるでコーヒーだ。
(――分かり易く、機嫌が悪い)
どんより暗い雰囲気を映したようなそれに、ため息を落とした。
「さっきのはあんまりじゃないですか」
「――何がだ?」
香苗の言いたいことは達也とて分からんでもない。
だが気づかなかったフリをして達也は視線だけで促す。
「断るにしても言葉を選んでください」
にべもない態度に女の子を気の毒に思ったのだろう。
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