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「営業部に戻ってコピーしてから、記憶を捻出しながら塗ってみます。出来たらお届けします。手掛かりかどうかは分かりませんけど、水葵さん、和菓子とハンバーグと小籠包が好きなんだそうです。帰り際に食べ歩きの話をしていた時にそういうお店を選んでいると、本場の小籠包が近くにあるのにまだ行ってないから行ってみたいんだけど、ちょっと怖くてって話されてました。お休みの日に中華街に狙いをつけてみるのもいい手かもしれません。」
立ったままの大樹を見上げながら話して、恵理子もカタンと音を立てて席から立ち上がる。
「じゃあ。今日中に地図コピーしてお渡ししに来ます。」
と言う恵理子に頭を下げて大樹がお礼を言うと、
「いえ、水葵さんには幸せになって頂きたいし、それに水葵さんのお兄さんを紹介して頂くのだから、これ位はしないと顔向けが出来ないと言いますか…。」
と恵理子は情けない表情で苦笑していた。
二時間後、神戸の地図をセロテープで繋げた大きな物に、右側が色鉛筆で塗られ、店に丸が付いた物を届けてくれた。
梛に連絡を取り、長山恵理子を紹介して、恵理子から神戸の話を聞き、地図を受け取った。
ーー「水葵さんの地図は地元の方の手書きコピーで、観光客に向けて配る様な物で、ただ細い道とか見つけ難いお店が書いてあって、それでスマホ地図を見ながら歩いてたそうです。ポートタワーは目立つからいいですねって、そこを目指せば帰れるとか笑って言ってました。」
恵理子の言葉を聞いて、元気に楽しく暮らしていると思うと嬉しい気持ちと、会いに行って迷惑じゃないかという気持ちが湧いた。
(彼氏…いるかも、水葵さん、若いし可愛いし…。)
そんな事を考えて、それ以前に自分が相手にされてなければ考えても同じだなと思い直して、仕事を終えて帰宅してから電話を掛けた。
「もしもし、川瀬です。ご無沙汰しております。奥様もお変わりありませんか?」
『川瀬さん。こちらは変わりないですよ。どうされました?』
電話の相手の声がウキウキして聴こえる。
どうされました?なんて聞きながら、本当は大樹の用件などお見通しなのだ。
「水葵さん、来週の日曜から火曜日までお休みだと梛さんにお聞きしたのですが、健介さんは何かお聞きですか?何でもいいので教えて頂きたくて。」
『あぁ、それね?』
ニヤッとした顔が見えそうで大樹は苦笑した。
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