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水葵の手料理は何度か食べる機会があったが、下手という程でもなければ不味いという事もない。
主婦の腕前で言えば上の方じゃないかと思えた。
それも優子が基準だから強くは言えないが、大樹には十分に美味しい物だった。
(水葵をもう北川には会わせたくないな。)
そう考えると家族と招待したい人だけを招待しての挙式、これは正解だと思えてまた必死で式場を探した。
夜になるとおやすみなさいのメールが届く。
メールも電話も苦手と話す水葵は悲しそうに続けて言っていた。
ーー「今日帰る、とか、ご飯いるとか…長くならない様に気を付けてすぐ読める文章で打つの。返事はないのよね。待つ時間が辛いからスマホを見ない様にしてたの。今でも少し苦手。」
毎日のメールは、と考えたがそんな水葵がモーニングコールとおやすみなさいのメールはしてくれると約束してくれた。
早番で出来ない事もあるけどと、苦笑する水葵に無理しないでと約束をさせて、初めてのおやすみメールが届いた。
ーーー
「大樹、おやすみなさい。また明日。」
「おやすみ水葵。また明日。」
ーーー
苦手だろうからとお互いに短い文章。
それが嬉しくて愛おしかった。
(これは永久保存!!)
にやけたまま眠りに就いて、翌朝、水曜日。
水葵のモーニングコール、6時半に大樹は目が覚めた。
『もしもし?おはよう!ちゃんと起きました?』
「おはよ…眠いけど…起きた。」
『気を付けて行ってらっしゃい。朝ご飯食べてね?』
「うん。水葵は何時出勤?」
『今日は通常なので8時半です。歩いて五分で楽ですよ。』
朝から耳に栄養が行き渡る様な声が心地良い。
「元気出た。水葵の声聞いて…今日も頑張ろう。」
『はい。私も元気出ました。じゃあ、また明日。』
「うん、また明日。」
通話を切るとふにゃとした顔でスマホを見つめた。
また明日、そんな言葉だけで幸せ気分になれた。
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