水曜日

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「すみません、忘れて来てしまいまして…。川瀬さんには紹介して戴いて申し訳ないですが、私の力足らずで無理でした。」 頭を下げる恵理子に大樹は伝言の続き、と付け加えて言う。 「自分には無理だけど担当者を紹介する。名刺が入ってるから連絡を取る様に。あとは長山の営業力次第だって。水葵さんの側に居られなくて助けてやれなくて、きつい言い方をしてしまったと謝っていらした。会えば責めてしまいそうだからって、頼まれた。内容はいい物だって。梛さん、夜に話を聞いた水葵からかなり怒られたんだって。それで水葵から伝言。「兄がごめんなさい。ひどい事を言われたと聞きました。どうか私に免じて兄を許して下さい。長山さんのお幸せを願っています。」確かに伝えたからな?」 言い終わると同時に席を立つと、腕に重みを感じる。 長山が両手で大樹の腕を持っていた。 「どうした?」 「本当に中里さんは私に担当者を紹介して下さった?」 「開けて見ればいいし、電話したら名刺がニセモンなら分かるだろ?」 「偽物〜〜。」 ウルッと泣きそうな目になるから、大樹はギョッとして困った顔を見せる。 「冗談だろ?そんなにひどい事を言われたのか?」 「いえ、言われて当然かと…寧ろ、水葵さんが優し過ぎます。川瀬さん、会えたとは聞きました。どうなりましたか?余計な事だって分かってます。でも気になりますし、水葵さんには絶対に幸せになって欲しいんです。」 うるっとした目元をハンカチを出して押さえながら、恵理子は言い、大樹笑顔を向けた。 ふぅ、とため息を吐いてから大樹は周りを見渡した。 「ここじゃあな…昼飯、外出るか。どこまで話していいかそれまでに水葵に聞いておく。それでいいか?」 「いいです……けど、水葵?呼び捨てですか?」 「女って名前の呼び方気にするって本当なんだなぁ。」 「当たり前じゃないですか?嫌いな女性を下の名前で呼びますか?」 言われてなるほど、と納得してから、 「11時50分、ロビー。奢るけど定食岩井な?遅刻なしで頼む。」 と言い残して大樹は営業部から出て行った。
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