水曜日

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「ごちそうさまでした。」 と店を出た所で恵理子にペコリと頭を下げられて、いいえと答えると少し赤い目で訊き返された。 「水葵さんに話す事、確認されたんですよね?」 「ああ。長山なら構わないって。神戸で女同士の話をした仲だからってメール来てたけど。」 女同士の話が意味が分からないと返したが、水葵からはそれは内緒ですと返信があったと言うと、恵理子はふふっと笑った。 「靴のお礼、代わりに伝えて下さい。凄く気に入ってます。大事にしますって。今度は普通の恋愛をして仕事に理解のある男性を見つけます、私らしい妻になります、そう伝えて下さい。」 「長いわ!」 「事業部課長なんですからそれ位暗記して下さいよ。」 クスクス笑いながら言われて、はいはい、と歩きながら答えると、大樹は空を見上げた。 「天気いいなぁ、水葵、何してるかなぁ。ちゃんと食べてるかなぁ。長いメール嫌がるんだよなぁ。意外と男前?」 呟いていると横で恵理子が笑っている。 「完全に惚れまくりですね?男前には少し同意します。これは北川にも話してませんけど、水葵さん、ドレッサーに飾っていた写真立ての中に、一つだけ、二枚重ねて入れていたんです。」 「写真立てに二枚?開けたら見れるって事?」 「ええ。北川が気付いてくれたらいいのにって気持ちだと思います。いつでも戦う準備は出来てたって事です。結婚写真の後ろに私と並んで歩いてる写真を入れてました。少しずらしていたから良く見れば分かります。妻が家から居なくなって、何処かに連絡先はないか捜そうとすれば気付けたと思います。それを見たらすぐに家出の理由は分かる。なかなかに男前です。」 「ふむ…それは家出をする前からそうなってたんだろうな。相手に興味があれば相手が見てる物も見ようとするし、きっと興味を持って欲しかったんだろう。男前だな。見られたら喧嘩になるだろうに…。」 会社が見えるとこまで来て、大樹のスマホが振動した。 「仕事ですか?急ぎましょう。」 恵理子が言い、会社に向かおうと足を早めると、 「いや、水葵。」 と大樹が蕩けそうな顔を見せたので、呆然として足を止めた。 ーーー 『お昼食べました?話は出来ましたか?今日の日替わり定食、鯖の味噌煮だったんです!!でもさっき最後の一つが食べられました。』 ーーー 「ガックシ」とスタンプが最後に出て来て思わず微笑んだ。 「どうかしました?」 「いや、鯖の味噌煮を食べさせてやろうと思っただけだ。さぁ仕事、仕事!」 恵理子の肩を叩き、スマホをしまいながら大樹は会社に入って行った。
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