3222人が本棚に入れています
本棚に追加
日曜日の訪問
「着いた………よし!ここから在来線、と。」
日曜日に朝早い新幹線に乗り、大樹は教えてもらった住所を見ながら水葵の寮へと向かっていた。
*******
大樹より早起きをした優子は、大樹に頼まれた鯖の味噌煮を作り、玄関先で大樹を待ち構えていた。
大樹の姿が見えると風呂敷に包まれたそれを見せた。
「これ、鯖味噌。水葵ちゃんお薦めのお味噌を使ったから口に合うはずよ。」
「朝早いのにありがとう。」
ペコリと少し頭を下げて受け取ると、優子は微笑んだ。
「どうせお父さんは早起きするし、店は開けるし夕ご飯を早く作ると考えたらどうって事ない。それに水葵ちゃんが食べるのだしね。いいかい、大樹。水葵ちゃんは若いんだからね?これから普通に結婚する年齢で、出会いはいくらだってあるんだ。こんな古い店の長男に嫁いでくれるなんて有り難い事だよ。店は私達の代で閉めるけどね、財産なんかないし、傷付いているんだから大事にね。ちゃんと食べさせて、いいね?」
「分かってる。鈍感なりに大事にする。」
「バカだね。鈍感だから人の倍、見てやりなって言ってんだよ!ほら、会っておいで。」
スーツの埃をパンパンと叩き落とす様にして、大樹は優子に送り出されていた。
*******
街並みを眺めながら歩くいて行くと、少し先にあるコンビニの前に女性が立っている姿が目に入った。
顔が見えない、はっきりと見えるほど近くもない。
だけどそれがシルエットだけでも水葵だと分かると大樹は走り出した。
息を切らして前に立ち、水葵の顔を見ると同時に片手を肩に回してぎゅっと抱きしめていた。
「水葵、会いたかった。こんなとこでどうしたの?」
体を離して聞くと、頬を赤らめた水葵が笑顔で答える。
「ここを通るでしょ?飲み物が足りないと思ったし、序でに待ってたの。ついでだよ?」
序で、を強調する口調が可愛い過ぎて手を水葵の前に無言で出した。
パシン!と来るかと思いきや、買い物袋を渡されて思わずクックッと声を出して笑ってしまった。
(俺の彼女は可愛らしいが逞しい。)
惚れなおすの一言しかない。
最初のコメントを投稿しよう!