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間に合わない。
今からどう走ったとしても、白夜の詠唱に____音の速さに、勝てるわけがない。
速さなんてものは、ものの種類ごとにだいたい決まっている。
人間の走る速さはせいぜい1秒に10mかそこら。対して音速は軽く300mを超える。
どちらがはやいかなんて火を見るより明らかだ。人と音なら音の方が速いに決まっている。
俺の足が特別遅いとかそういうわけではなくて、物事の種別ごとの速さの序列というのは初めから決まっているものだ。誰が何をどうしようと絶対に覆ることはない。
学校に遅刻しそうになったからといって時計の秒針よりも速く歩くことができるわけはないし、サバンナでライオンに追いかけられたからといって突然ライオンよりも速く走れるようになるわけはない。
そのあたり、世界は実に平等だ。嫌な平等さである。
どんな状況だろうとそのモノ自体の持つ速さは変わらない。遅刻寸前で社会的地位が消滅寸前だろうが、肉食獣に追いかけられて命の危機だろうが、もちろん今のこの状況だろうが!
「【[[rb:聖なる光 >ホーリー]]】!」
白夜の詠唱。
白く、光が爆ぜた。
光の奔流が指輪から溢れ出る。
すべてを押し流し、包み込む光の川。
光の初級魔法、[[rb:聖なる光 >ホーリー]]。
一度都の光魔術師が使っているところを見たことがあるが、指輪からろうそくのような光が漏れ出るだけの魔法だったような気がする。断じてこんな馬鹿みたいな出力の兵器ではなかったはずだが、そこはさすがに"天才"白夜というところか。
白夜は余裕の笑みを浮かべている。
対して俺は今もって策の一つも浮かばない。
絶体絶命というやつである。
ああ、くそ。終わりか。
人は音には勝てはしなかった。そう簡単に序列は覆らない。
走馬灯のように今までの出来事が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
何が悪かったのだろうか。
白夜にケンカを売るような口をきいたことか。
それとも謝ったことか。
そもそも今までの積み重ねで嫌われていたことか。
当馬を回収してからこの廊下を通ったことか。
当馬を気絶させたことか。
いや、過ぎたことを後悔しても仕方がない。
なんにせよ時間は戻らないのだ。
なら、どうにか魔力を融通して生徒の保護だけでも___
その瞬間、ある考えが頭をよぎった。
いや、そうか。
[[rb:だからこそ>・・・・・]]か。
俺にわかるくらいだ。当然白夜にもわかるに決まっている。
加えて、やつは天才である。
なら、問題はない。
そのまま突っ走る!
顔を上げた。
その名に違わず聖なる浄化の輝きを放つ光の束が、ダムが決壊するような勢いで一気に押し寄せる。
恐怖がないといえば嘘になる。
が、ここで怖気づいても仕方がない。
流れに身を踊らせるように床を蹴った。
果たして、光の氾濫は俺を飲み込む寸前でにわかに輝きを増し____
そして、ふっとかき消えた。
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