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この世界には2種類の人間がいる。
魔力を持つ人間と、持たない人間だ。
この世界の大多数の人間は、生まれた時から多かれ少なかれ体内に魔力を有している。が、どういう理屈か偶にそれがない者たちがいるのである。
彼らは魔術の一切を使用できず、俺の元の世界の人間とほとんど同じ生き物のように見える。
慣習的に魔力を持つ者をリング、持たない者をロストと呼ぶ。
ロストはリングに比べて数が少なく、総人口の1%かそれ未満と目される。
リングに比べてロストはできることが少ないため、その立場は悪いものになりがちである。
ロストは体内に魔力を持たないため、体外に魔力を携帯していることがある。
女神から力を託されたリングである者たちは、その力を失ったロストに対しても慈愛を以て接することが求められる。少なくとも建前上は。
この世界では初等部で習う常識だ。
「何しやがる!危ねえだろうが!」
白夜が吠える。
が、それはそのままこっちのセリフである。廊下で魔術を使うな。
「まったくだ。突然錯乱して攻撃魔術を撃ってくる生徒会長と同程度にはな」
「てめえが妙なこと言い出すからだろうが!」
「妙なこと?」
「言い過ぎただとか、悪かっただとか、とにかくそういう...黒野嗣仁が言わねえようなことをだよ!てめえ今までそんなこと、天が降ろうが地が裂けようが女神に誓ったように言わなかっただろうが!気が狂ったか、
そうでもないなら偽物だと思うだろ、普通は!」
「は?」
待て待て。
とするとなんだ、白夜の攻撃は、俺が謝ったから、偽物かなんかじゃないかと思ったからってことか?
いやまあ確かに人間に擬態する闇は存在する。ゲームにも出てきたし、あるルートではそういう能力を持った敵の変装を見破るための策を弄することで攻略対象との絆を深めるような描写もあった。
可能性はゼロではない。ゼロではない、のだが。
そんなにか...?
そんな自覚はなかっただけに若干ショックを受けている。
世界広しといえども、謝っただけで偽物認定される人間はそうはいないだろう。
そのレベルで前の俺はアレな人間性を持つ人物だっただろうか。いやまあ、良くも悪くも悪役らしいといえばらしいのだろうか。
「俺は黒野だ」
「だろうな。闇なら浄化して終いだ、引火なんざしねえ」
そう。これが先ほどのからくりだ。
[[rb:魔力なし >ロスト]]であるところの[[rb:黒野 > おれ]]は、魔力の入った魔術瓶を携帯している。その中には光の魔力の入ったものもあった。
同じ系統の魔力どうしが接触すると、反応してより大きな魔術を発生させる。さっきの場合なら、校舎の壁に穴をあけるくらいの魔術にはなっていただろう。
だから白夜は接触の直前に魔術を強制終了させた。このあたりはさすがに天才である。
「ま、てめえがてめえだったならそれでいいさ。いけすかねえ落ちこぼれだが、__」
「それはそれとして、白夜会長」
白夜に向き直る。
「あ?」
「学内での無許可の魔術行使は校則違反だ」
「......」
白夜の顔に縦線が走った。
「生徒のいる中での攻撃魔術。加えてあの規模」
「.........」
白夜の顔の縦線が増えた。
「本来ならば事情聴取のうえ危険人物として禁固もしくは停学だが、仮にも生徒会長。それに理由は一応筋が通っているし、実際には負傷者もなしだ」
白夜の顔に不敵な笑みが戻る。
「なら__」
「以上を考慮して、反省文100枚で手打ちだ。何をしようがこれ以上はまからん」
「............」
不敵な笑みのまま、白夜が固まる。
一瞬の後、目の前から白夜は消え失せていた。廊下の奥にそれらしき影が見える。あいつ魔術使ったな!?
「会長!僕は手伝わないって言いましたよね!?」
生徒たちの間をすり抜けるようにして副会長が走る。
「待て白夜!」
俺も後を追う。というか処理は手伝わないってそういう意味だったのか。もっと物騒な意味かと思っていた。
あと反省文はちゃんと書け。生徒にあたったらどうするつもりだったんだお前!
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