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最終話
"僕、貴方のこと穴としか思ってないんで"
その言葉は呪いのように、俺の心を縛りつけた。一応電話番号を書いたメモは持ち帰ったものの、連絡なんてできるはずもなく。
俺は、あの熱を思い出しては一人、慰める日々が続いた。
「はあ…」
もしもあの時、続きを言えたとしたら、俺はなんて言ったんだろう。思い浮かぶのは、"身体からの関係だけど、好きになってしまった"とか、"男同士で俺もよくわかってないけど、惹かれてしまった"とか、陳腐な台詞ばかりだった。
ごろり、と自室のベッドに寝転んで、久々にあのアプリを開いた。トークルームへと移動し、"リョウ"との会話を最初からスクロールした。
自己紹介から始まり、お互いの恋愛の話をした。
『好きなタイプは?』
等と当たり障りのないことを聞いたけれど、リョウちゃんはあまり自分のことを多くは語りたがらなかったから上手くはぐらかされてしまった。そして、更にスクロールしていくと世間話の途中で
『ワタルさん、"フォレスト・ガンプ"って映画はご存知ですか?』
とリョウちゃんが突然言った。
『うん、有名だよね。名前だけは知ってるよ』
『じゃあ、時間があったらぜひ観てください。大好きな映画なんです。…さっきの答えなんですけど、私、フォレストのように1人の人をずっと思える人がタイプかな』
『そうなんだ、じゃあ今度観てみるよ』
その場では、完全に社交辞令だった。だが今は違う。遼君が思っていることを少しでも知りたくて、"フォレスト・ガンプ"を観ることにした。
今は、便利な時代だ。見ようと思えば何処かへ借りに行くこともなくネットで買える。文明の利器に感謝しながら、俺は"フォレスト・ガンプ"を観た。
…遼君は何を思い、フォレストのような人がタイプだと言ったのだろうか。フォレストにとってのジェニーのように、一途に誰かに愛されたいと、そう思っているのだろうか。
あんなに冷たい言葉を本心で言う人間が好きだというには、あまりにも心温まる映画だった。そしてその相反する事実が、さらに遼君への気持ちを昂らせた。
彼が考えていることはわからない。ただ一つ、わかったことは…たった一度で遼君を手放すことは嫌だと、あの冷たい心に寄り添ってみたいと、自分の気持ちがはっきりしたということだけだ。
そこからの俺の行動は早かった。鞄の底に突っ込んだメモを取り出して、電話をかける。
「留守電サービスにお繋ぎします。ピーという発信音の後に…」
俺はそれを待てないと言うように、
「渉だけど」
とメッセージを吹き込んだ。
「遼君にとっては面倒臭くても、俺、好きになっちゃったみたい。"人生はチョコレートの箱、食べてみるまでわからない"だっけ。本当にそうだよ、俺、君のことを好きになるなんて夢にも思わなかった。連絡、待ってるから」
一息で言い切り、電話を切った。
この恋だって、どうなるかわからない。遼君から返事が来るかどうかも。もし、返事が来たならば…ちゃんと、ありのままの気持ちを伝えよう。戸惑ってることも全部。
俺は、hug meを削除した。きちんと遼君と、向き合いたい、そう思った。
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