国道数奇譚 セカンド ー ①

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国道数奇譚 セカンド ー ①

 風が少し強い。  吹きっさらしのベランダでは煙草に火が点かない。  一度部屋に戻ってライターを灯す。  ライターの火を眺めながら、自分が肌着と下着しか身に付けていないことに一瞬躊躇する。躊躇はしたが、構わず煙草に火を移してベランダに出る。 どうせ今日も部屋を出ることもない。 誰も僕を見ることもない。 であれば着替える必要なんてどこにも無いと思った。  いつの間にか外は本格的に色合いが薄まっていた。切れ味を伴う空気が痛い。  にも関わらずわざわざ外で煙草を吸いたくなったのはどうしてだろう。  ベランダからアパートの前を流れるドブ川を見下ろす。もちろん綺麗な川ではないけれど、数少ない空からの光を受けて少しだけ輝いている。目線を上に移す。雲一つ無い薄い青。透き通った空気に風の音が舞い散っている。透明な匂いが喉へと落ちる。でもいくら天気が良かろうと無条件に世界を愛せるものではなく、冬の澄んだ景色に向かって僕は必要以上に煙を吐き出した。  風が強い。  寒気のうねりがドブ川の表面を泳いでいる。  そういえばそろそろ大学に顔を出さねば単位を落とすことになるかもしれない。就職活動もそろそろ始めねばならないかもしれない。  風が強い。  煙草の火を揉み消し、部屋に戻る。空のペットボトル。食べ終わったカップ麺の空の山。投げ捨てたティッシュペーパー。部屋はこの数週間で排出したゴミが散乱している。  片付けなきゃ、と思う。  でももう誰も来ないであろう部屋を片付けることは何より苦痛で、何の意味があるのか僕にはよくわからなかった。  捨てるべきゴミでさえ、これ以上僕から何かが消えていくことはどうしても我慢できなくて、また僕は後へと回す。  外を跳ねる風の音がうるさくて、僕はもう一度布団にくるまった。
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