数奇な出会い

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 結局、風呂場の騒動は信長様にまで知られる所になり夕餉の時に大層笑われた。  全裸駆け抜ける良勝、股間を抑えて気絶する俺、それに泣きながら縋る半裸の犬千代。何このカオス状態。である。  それを楽しそうに良勝が夕餉時に語りだし、聞いた信長様はみそ汁を盛大噴き出して大笑い。 「うつけうつけと言われてきたが、これに関してだけはワをも上回るおおうつ けだぞ正道!」  膝を叩きながら上機嫌に笑う信長様。  天下の信長に太鼓判を押されたうつけ者認定されてしまった。コレは帰ったら自慢できるなーやったー。ちくしょう。 「いや、ほんとうにお恥ずかしい限りで」 「いやいや、実に笑わせてもらった。ここ最近は戦ばかりと、少々気が張っておったから良い気分転換よ。それにしても良勝、貴様までなにをしておる、女中共が怒っておったぞ」 「いやはや、まさか風呂場で睦言に遭遇するとは思いもよらず吃驚仰天してしまいましてな! はっはっは!」 「だからあれはそうではないとあれほど!」  犬千代が抗議の声を上げるが、良勝は俺を見て「しかし相手方はそう思っておらなんだようだが?」とニヤリと笑う。  元気な息子さんを見られた手前、否定しても何の説得力も無い。 「ほう、おまえは犬千代のような起伏の無い身体でも良いのか?」  信長も下世話な話が好きなのか、身を乗り出しながら聞いてきた。もくもくと食事をしていた勝家が「殿、はしたのうございます」と注意するが信長様は「おまえも気になる話題であろう」と言って黙らせる。  ……勝家さんも俺の趣味趣向の話が気になるんですか。 「で、どうなのだ」 「答えよ正道」  良勝が身を乗り出し、信長様が答えを促す。  どうした物かと答えに窮していると、ふと先日の味噌ラーメンについて思い出した。 「そ、それより信長様に献上すべきものがあるのです!」 「む、献上? なんだ」  話をそらされたことにムッとした様子だったが、俺の献上品が気になったようでそちらに気が流れた。 「故郷の食物でして、味噌の味を再現したものです」 「ほう、味噌とな? だが味噌にはワシは煩いぞ、半端な物であった時は先の質問、しかと答えてくれような?」  うぐ……誤魔化されてはくれないか。  まあ、どちらにせよ献上することに変わりないし、可能性がある方に賭けるか。 「信長様、腹持ちの具合はいかがでしょうか? 献上品の食べ物は少々量がありますゆえ」  犬千代の言葉に彼は腹をさすり「ふむ、であれば明日の仕合の後に食うとするか」と告げる。   「そうだ、正道。お前の法力について何か余興を見せよ」  信長様がそんな事を言い出した。 「余興、ですか」 「うむ、明日の仕合でも楽しみだがどのような力であるかを知らぬでは、思わぬ事故にもなり兼ねん。もちろんお前だけ手を見せよとは言わぬ。明日の試合前に勝家の戦いを一度見せてやる。よいな、勝家」 「はっ」  勝家は言葉少なに頭を下げて同意を示す。  俺は手の内を見せる代わりに勝家は戦い方を見せると同時に、一試合挟むことで体力をやや消耗した状態での戦いとなるわけだ。一方的に不利という訳でもない取引だ。  そうとあれば断わるのはまずい。既に一度信長様の質問を流している手前、これをまた拒否したら心証が悪くなる。 「わかりました。ですが、室内なので危険な技は使えないのでそれはご容赦を」 「うむ」  すでに粗方食事を終えていた俺は立ち上がり、皆の視線が集まる中央へと歩み出る。  今の食事の場は顔合わせの場所とは異なるが、似た広さを持つ木の床の部屋。  畳であった場合、色々と注意が必要だがこれ位ならばと思い、手を前に出す。 「火は……危ないので水にしましょうか。水よ踊れ」  すると掌の上に水の塊が現れ、まるでシャボン玉のように浮かび上がった。  犬千代との旅の間で分かった事だが、この法力を使う際にどのように維持をするかをしっかりイメージ出来ていれば、このように空中に留める事も可能であった。 「おお、これは!」  良勝が身を乗り出すようにして水を見つめる。  勝家もさすがに驚いたようで、きれいな瞳を大きく開いて見つめている。  ただ水の玉を出しただけでは芸が無いと思った俺は、手をゆっくりと動かして操り始める。  すると不定形に揺蕩っていた水球は形を変えて、鯉のような形へと変わり空中を泳ぎ出した。 「おおこれは雅な」 「なんと、面妖な」  食事の場には他の家臣らも居た為に、彼らも食い入るようにそれを眺める。 「信長様、なにか要望はございますか?」 「要望とな」 「水は好きな形に変える事が出来ます。色までは無理でも、お望みの物があれば真似て見せましょう。見本があればですが」  その言葉に、暫く考えたのち「帰蝶を此処に」と部下に指示した。 「今からくる我が帰蝶に似合う花を再現して見せよ」 「……私が考えてよろしいのですか?」 「む」 「女性に贈る花ですから、私が送るのでは少々問題では」 「……ならば胡蝶蘭を」  その言葉に思わず俺は「良い花ですね」というと、彼も満足げに頷いた。  おそらく花言葉を理解してのチョイスなのだろう。  胡蝶蘭の花言葉は「幸福が飛んでくる」や「純粋な愛」という意味を持つ。ピンクの胡蝶蘭であれば「あなたを愛する」という意味にもなる。本当に信長様に選んでもらってよかった。  俺がこれを選んでたらひと騒動になっていた。  暫くすると部下が連れて来た帰蝶……つまり、信長様の妻である濃姫がやってきた。  鮮やかな紫の小袖に金の刺繍、その上に打掛を纏った美女が現れた。  足音も無くしずしずと歩く姿と、信長のやや後ろに腰を下ろす姿を見て思わず「経てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言葉を思い出した。  この時代にはまだない落語家(はなしか)の言葉ではあるが、その流れは既にこの時代からあったのだと感心するほどだ。 「信長様、どのような御用件でしょうか」  涼やかな声で語り掛けると信長様は濃姫に答える。 「此度、新たな家臣を得ることになる。その男の力を見せて貰ったのだが実に面白くてな、それをお前にも見せてやろうかと思ったのだ、みろ、宙を泳ぐ鯉だ」  信長様の言葉に合わせて水で作った鯉を操って、彼の手元まで泳がせる様に動かす。 「さわってみろ」 「……では」  恐る恐ると手を伸ばすと、濃姫の指先が水にぬれる。 「まあ、本当に水で出来ているのですね」 「おどろいたか? さらにもう1つお前に見せたいものがあるのだ」 「ふふ、相もかわらず貴方様はいたずら好きです事。どんなものか楽しみです」  しとやかにほほ笑む彼女を見て笑みを浮かべる信長様の顔はまさに「愛妻家」という言葉がしっくりくるほどやさしげであった。  こんな人が後に魔王なんて恐れられるとは到底思えないのだが……。 「さて、では見せて見よ」  彼の言葉にハッとして俺は頷く。  胡蝶蘭、あまり何度も見た事はないがそれでもその造形は思い出す事くらいはできる。 「では、行きます」    俺は水鯉を操り、広間の中央に戻って来させるとさらに水を生み出し手大きな水球に変わる。子供ほどの大きさになり全員がざわめく。  それを盾に引き伸ばし、床に水が触れるとそれはまるで大樹の様に根を張る様に凍り付き始める。 「おお、これは!」 「まさかこの時期に氷だと!?」  木の部分が出来上がらると、簾の様に垂れ下がった氷枝の先に無数の胡蝶蘭そっくりの花弁が付き始める。それはもはや氷というより水晶。  俺がネットで調べた氷の様に細かいひび割れを含んだクラック水晶そっくりだった。  ぱきぱき、と凍り付く音がいくつも響くなか全員の視線が集まる。  氷結により体積は小さくなり、最終的にはその大きさは子供一人分も無い大きさに変化した。 「コレは私の知るクラック水晶と呼ばれる石を真似て作りました」 「水晶……」  濃姫は俺の言葉をうっとりとした顔で見つめ続ける。幻想的な光景に言葉を失っているようだ。 「信長様の選ばれた胡蝶蘭には「清純」や「純粋」といった意味が含まれます。そしてクラック水晶には「神秘的」という意味を持ちます。この二つを持ちましてこの胡蝶蘭を濃姫様に最もふさわしいと思い、捧げさせていただきます。 「見事」  信長様が手を打つと、周囲の家臣たちも続くようにして拍手を送ってくれた。  目を輝かせている者も居れば、苦々しい顔している者もいる。きっと俺が信長様に褒められたのが気に食わないのだろう。 「しかしこれは氷なのですよね? いつか溶けてしまうのでは……?」  残念そうに問う濃姫に信長様が「どうなのだ」と聞いて来る。 「そう簡単に無駄になる品を送る程野暮ではありません。私の法力で作った氷はそう簡単には溶けません。もちろん衝撃などで壊れたりはするかもしれませんが、日の当たらない場所に保管して頂ければ暫くは観賞用として持つことでしょう。お望みであれば、後程改めて作り直す事も出来ます」  その言葉に嬉しそうに頬を緩める濃姫。 「ならばそれは後程、帰蝶の部屋へと運び込むとしようではないか。今はこれを肴に飲むとしよう」  その後は、信長様もすっかり上機嫌で濃姫のお酌を頂きながらの飲めや歌え屋の大宴会となった。  すっかり上機嫌となった彼らは夜更けまで飲み明かしていたそうだが、俺は途中で酔いつぶれてしまい気が付けば翌朝となってしまっていた。  こちらの世界の朝は早い。  ほとんどの者が朝日が昇ると同時に活動し始める事が普通で、俺のような現代人にとってはかなりつらい生活リズムだったが、この数日ですっかり慣れたようで俺もそれに習う事が出来るようになっていた。  俺は井戸の冷たい水で顔を洗っていると、そこに犬千代がやって来た。 「おはよう正道」 「ああ、おはよう犬千代」 「これから鍛錬か?」 「まあね、まだまだ辛いけどこれを習慣づけないとどうにもならないからね」 「よし、ならば相手をしよう」  実は旅の間、就寝前に何度か彼女と木の棒での打ち合いをしている。あの時は本気でかかって見事に返り討ちにされていた。 「いや、やめておくよ」  そう告げるとしょんぼりと肩を落とした。 「やはり俺より勝家のような出る所出ている身体の方が好みか?」   慌てて否定する。  どうにも犬千代は俺の事を好いていてくれるようで、試合騒動が持ち上がってからやけにアプローチをしてくる。俺みたいな男のどこがいいのかと思わないでもないが、それをうれしく思う気持ちも確かにある。 「そうじゃなくて、今日戦う相手には犬千代も居るんだから手の内は見せたくないんだよ」 「む」 「なんせ勝った方は願いをかなえてもらえるんだろう? だったら、正面から戦って勝って、その願いをかなえてもらいたいじゃないか」 「……なるほど、それはたしかにそうだな! わかった、無作法な真似をしたことを許してほしい。今日の戦い楽しみにしているぞ!」 「ああ、お互い全力を出そう」 「当然だ!」  そうって立ち去る犬千代を見送った後、俺は背後の草陰に向かって声をかける。 「そういう訳だからさ、練習は1人でするよ」 「――気付いていたか」  影から出てきたのは女家臣である勝家だった。  袴姿でやって来た彼女は腰に木刀、左手に木刀の日本を持ってきていた。 「せっかくだから朝の鍛錬を、と思ったのだが先ほどの発言を聞いて無用な気遣いであったと理解した。こちらも正道殿の心意気を無下に扱う気はない。試合、楽しみにしているぞ」 「ああ」  そうって立ち去ろうとした彼女が足を止める。 「そうだ、先に言っておく。私が勝った暁にはお前を私の専属の小姓にするといったが、変更だ」 「変更?」 「お前を私の嫁にする」 「は? 嫁、夫じゃなくて?」 「何を言う、私がお前を娶るのだからお前が嫁だろう?」 「んんんん? 男は夫で女は嫁、じゃないのか?」 「何を言っているんだ? 強い物が夫で弱い物が嫁だろ」  ……なにそれ。  勝家が女になってることもそうだけどこっちの世界だとこれが普通なの? それとも俺が勉強不足なだけで戦国時代だとこういう表現が普通だったの? 「あのさ、一つ聞いていい?」 「なんだ」 「どうして俺なの? 犬千代は俺とソコソコ話す機会があったからわからないでもないけど、勝家殿はほとんど初対面でしょう?」 「……それなんだが、私にもわからんのだ」 「分からない?」 「お主を見た時から、何やら……甘い蜜のような、いや実際に香りがするというわけではないのだが、そうとしか言えぬ何かを感じたのだ。それを意識してから、犬千代とお前が親しくしているのを見ると言い知れぬ不快感が湧き出るのだ」  なおのこと訳が分からない。  自分の匂いを嗅いでみるが……うん、わからん! 「まあ、これが俗にいう一目惚れというやつなのかもしれぬな。とはいえ、これでも私は武士の端くれ。戦わずして嫁になるなど耐えられん。であるならばここで雌雄を決すべきだと感じたのだ。とうぜん、信長様に近付く者の実力をはっきりと知りたいという思いもあったがな」 「よくわからんような、わかったような……とりあえず昼の戦いをやれば解決しそうだな?」 「ああその通りだ……ではな」  そう言って今度こそ勝家殿は立ち去ってしまった。    その後、自分なりの訓練を行いつつ朝食を迎えた。  信長様は既に食事を済まされていたらしく、他家とのやり取りの書簡を作るので忙しいらしくその場にはいなかった。  当主がいない状態での食事はいろいろと窮屈だった。  俺に興味を抱いている者はその力についてアレコレ聞いて来るし、面白くないと思っている者達は聞こえよがしに「殿に取り入った粗忽者」と陰口を目の前でやり始める。  犬千代や勝家殿がにらみを利かせると収まるが、それも一時の事で声に出さなくとも目がありありと不満を訴えてきている。  隣で食事する犬千代の機嫌がすこぶる悪くなっていく。よく見れば対面で食べる勝家もだ。  ……まあ、俺も彼女らが不当に軽んじられたら同じ気分になるだろうから、そういう事なんだろうな。  とはいえ、新参者の俺がいきなり客人待遇で迎えられて、そのあげく家臣の中でも名高い柴田勝家と前田利家から優遇されているのに、そこに信長様の関心までも含まれたら誰だって面白くないはずだ。  だからこういう時は実力で納得させるしかない。今ここでアレコレ言った所で焼け石に水なのだ。  食事を済ませて、そうそうに立ち合い予定の中庭へと向かう。  腹に物が多少は言っていると動きにくいので、軽く腹ごなしに動いておくことにしたのだ。  用意した木刀を手に軽く素振りをしていると、大きな欠伸が上がった。  視線を向けるとそこにはいつの間にか信長様も来られていたようで、隣にいた濃姫の膝に頭をのせて寝転がっていた。 「なんだお前、随分とつまらん剣を振るうな。その程度じゃ勝家にあっさり負けるぞ」  心底どうでもよさそうに信長様が欠伸を噛み殺した顔でこちらを見る。  その言葉はある意味予想通りで、反論する余地もない事実だった。  苦笑いを浮かべつつ「ええ、自覚してます」と答える。 「そもそも、人と争った事すらないんですよ」 「随分と甘やかされて育ったのだな。どこぞのボンボンか?」 「それに関しては戦いが終わった後、信長様が雇ってくれると判断いただいた時にすべてをお話ししますよ。お楽しみは後に取っておきましょう……ちょうど、皆集まったようですし」  視線を向けると今回の戦いを見届ける為に多くの家臣たちが集まってきていた。  その中には初めて見る顔ぶれもあった。  小柄で軽装、それでいて眼力は信長様のようなそこを見据える視線が俺を貫く男。黒髪を短く切りそろえてスポーツマンのような見た目で、肌は日に焼けているのと僅かに土などで汚れており、野性味あふれる姿だった。 「猿、帰ったか」 「お館様! この猿、つい先ほど美嚢より戻りましてございます! すると無いやら面白き余興があるとの事で、はせ参じました!」 「うむ、蝮は息災だったか」 「はいそれはもう『おおうつけが死んだその暁には尾張を喰ろうてやるつもりだったが、それはまだ先の話になりそうだ』と笑っておられました」 「ふん、食えぬ爺だ」  そういう信長様の口は皮肉気に歪んでおり、そのやり取りを好ましく思っているようにすら感じた。 「それにしてもこれはどういう趣の催しで?」 「新たな家臣を迎える。その実力を測るための一騎打ちだ。それの相手をするのは勝家と犬だ。……そうだ、昨晩勝家を試合前に事前試合をする約束だった。猿相手をしろ」 「え!? 俺がですか!? 今帰ったばかりですよ!?」 「平気だろう、どうせ本気でやるのではなく、試合相手にその手の内を軽く見せる程度の打ち合いだ」  相手という言葉に彼はこちらを見る。  先ほどから猿とよばれているが……もしかして彼は豊臣秀吉? いや、でも確かこの時の彼は別の名前だったような……なんだっけ。  そんな事を考えていると、信長は寝転がった姿勢のまま勝家を呼ぶ。 「これより、勝家と猿の事前試合を行う。この打ち合いはあくまで本番までの準備運動だと心掛けよ」 「「はっ!」」  最初は不満を溢していたが、正式に命令を下されると歯切れの良い返事で頭を下げた。  おそらくこの気安いやり取りも信長様が気を許している証だろう。  二人が広場の中央に移動し、4m程離れた距離で向き合う。  勝家は木刀一本で対する彼は木刀を半分に切った様な短い小太刀サイズを二本構えている。   「済まぬな藤吉郎殿」 「いえいえ、お館様が望まれた以上それにお答えするまでってやつですよ。それに此度、桶狭間の戦いに最後まで参戦できませんでしたから、消化不良を此処らで晴らさせてもらいますよ」  藤吉郎っていうのか。っていうか桶狭間の戦いに最後まで出られなかった? なんでだろう。たしか、うろ覚えだけど桶狭間の戦いにしっかり出てたよな?   やっぱり少しずつ俺の知る歴史と違って来てる気がする。   「それでは、始め!」  その宣言に合わせて勝家が動く。手に持った木刀を振り上げ突進する。 「せぇい!」  ここまで風を切り裂く音が聞こえるほどの剛剣に度肝を抜かれた。あんな一撃をもろに受けたら骨が砕けるか死ぬ。  だが藤吉郎はそれをまるで軽いステップを踏むような動きで躱してしまう。 「ひぃ、こわいこわい。相変わらず勝家殿の剣は落盤のような恐ろしさだ」 「それを易々と見切って反撃をして見せた藤吉郎どのも相当だとおもうが」  笑って言いあう二人。よくみれば勝家の頬に軽いかすり傷があった。 「俺は力がてんで無ぇですからね、こうやって少しずつ充てるような狡い手しかできねぇんですよ」 「ふふ、それは私にとって一番苦手な戦い方だ」  そう言いあった直後再び動く。  今度は藤吉郎が先手。間合いを詰めてあと一歩で勝家の剣の間合いと言った所で横へ飛び、片方の木刀を投げつける。 「ふんっ!」  それを弾き落とす事で対応。直後、投擲と一緒に走り出していた藤吉郎が勝家の手前で滑る様にしてしゃがむようにして滑り込んだ。  突貫する藤吉郎に対する迎撃のつもりで振るった剣はがら空きになった真下から突き上げられた。当たるかと思った直前、勝家は後ろへ大きく飛びのき、その際に庭の土を巻き上げる様に蹴り上げ藤吉郎の顔に引っ掛けた。 「うぎゃ!?」 「隙あり!」  目潰しをされて悶えてるところに勝家の木刀が喉元に突きつけられた。 「……参りました」  数秒遅れて、拍手が送られるのであった。
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