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 それから沙希が二十歳になるまでおよそ八年。  年々女性らしく美しく成熟していく沙希に、私はずっと不安を抱えながら過ごした。  瑞々しい肌と張りのある体型、引き締まったフェイスラインに、鈴の()のような笑い声の沙希。片や、年を追うごとに女性としての魅力が目減りしていく私。  恭吾さんの気持ちがいつ沙希に傾いてもおかしくないことは、わかりきっていた。  そして沙希は二十歳の誕生日を迎えた。私は三七歳になっていた。  その日は三人でオシャレをして、ホテルのレストランでお祝いをした。  食事を終えて、デザートを食べ終わると、沙希がさくらんぼのような唇を開いて切り出した。 「それで、パパは私と百合香さんのどっちを選ぶの?」  判決の時を感知した全身が、不穏に脈打つ。私は息を呑んで、そっと恭吾さんを盗み見た。 「どっちと言われても……」  恭吾さんは両腕を組んで、困ったように首を傾げる。 「ちゃんと選んで。今日パパに選ばれた方が結婚するって、ずっと前から決まってるんだから」 「そうだなぁ……」  はっきりしない恭吾さんに、私も沙希と同じ気持ちになっていた。今日決着をつけてもらわないことには、私だってこれ以上待てない。 「それじゃ質問を変えるけど、パパは百合香さんを好き?」 「もちろん」  それを聞いて、首が繋がる思いがした。 「私のことは?」 「もちろん好きだよ」 「じゃあ結婚してくれる?」 「それは……」  恭吾さんが言葉に詰まる。  気まずい沈黙が続く。  何も言えない私は、俯いたまま祈るような気持ちで次の言葉を待った。  けれども恭吾さんの答えはなかなか出ない。 「あーもう、いいよ!」  沈黙を破ったのは、しびれを切らした沙希だ。 「私を選ぶって言えないなら百合香さんと結婚すればいい。百合香さんにはもうパパしかいないけど、私はパパよりカッコいい男子とだってつき合えるんだから、見くびらないでよね!」  沙希は強気に言い放つ。  赤みを帯びる瞳に滲んでいる涙すらも撥ねのけるように。  思いも寄らない沙希の譲歩に、恭吾さんと私は、ただただ呆気にとられていることしかできなかった。  
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