31人が本棚に入れています
本棚に追加
六
それから沙希が二十歳になるまでおよそ八年。
年々女性らしく美しく成熟していく沙希に、私はずっと不安を抱えながら過ごした。
瑞々しい肌と張りのある体型、引き締まったフェイスラインに、鈴の音のような笑い声の沙希。片や、年を追うごとに女性としての魅力が目減りしていく私。
恭吾さんの気持ちがいつ沙希に傾いてもおかしくないことは、わかりきっていた。
そして沙希は二十歳の誕生日を迎えた。私は三七歳になっていた。
その日は三人でオシャレをして、ホテルのレストランでお祝いをした。
食事を終えて、デザートを食べ終わると、沙希がさくらんぼのような唇を開いて切り出した。
「それで、パパは私と百合香さんのどっちを選ぶの?」
判決の時を感知した全身が、不穏に脈打つ。私は息を呑んで、そっと恭吾さんを盗み見た。
「どっちと言われても……」
恭吾さんは両腕を組んで、困ったように首を傾げる。
「ちゃんと選んで。今日パパに選ばれた方が結婚するって、ずっと前から決まってるんだから」
「そうだなぁ……」
はっきりしない恭吾さんに、私も沙希と同じ気持ちになっていた。今日決着をつけてもらわないことには、私だってこれ以上待てない。
「それじゃ質問を変えるけど、パパは百合香さんを好き?」
「もちろん」
それを聞いて、首が繋がる思いがした。
「私のことは?」
「もちろん好きだよ」
「じゃあ結婚してくれる?」
「それは……」
恭吾さんが言葉に詰まる。
気まずい沈黙が続く。
何も言えない私は、俯いたまま祈るような気持ちで次の言葉を待った。
けれども恭吾さんの答えはなかなか出ない。
「あーもう、いいよ!」
沈黙を破ったのは、しびれを切らした沙希だ。
「私を選ぶって言えないなら百合香さんと結婚すればいい。百合香さんにはもうパパしかいないけど、私はパパよりカッコいい男子とだってつき合えるんだから、見くびらないでよね!」
沙希は強気に言い放つ。
赤みを帯びる瞳に滲んでいる涙すらも撥ねのけるように。
思いも寄らない沙希の譲歩に、恭吾さんと私は、ただただ呆気にとられていることしかできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!