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 月日は更に流れ、沙希は二七歳になった。  今私達は、ひと月後に結婚を控える沙希との最後の思い出作りに、家族で旅行に来ている。  五歳の息子は恭吾さんに任せ、沙希と二人で温泉へ。  ライトアップされた露天風呂は幻想的に湯気を立ち上げていて、まだ肌寒い春の夜風さえ、お湯に浸かると心地よさに変わる。 「はぁ、気持ちいいね」 「うん」 「外で堂々と裸になれるのって、露天風呂くらいだよね……」  そう呟くと、沙希は呆れた視線をこちらに流し、 「何言ってんの、バカじゃん」  と言った。  その口元には、好意的な笑みが浮かんでいる。  沙希は露天風呂が好きだ。  私達が正式に家族になって三人で旅行するまで、一度も入ったことが無かったらしく、長い間憧れもあったという。  早く言ってくれれば、いつでも何度でも連れてってあげたのに。そう言ったら、ライバルに言えるわけないじゃん、と拗ねられた。 「あのさ、ママ」 「うん」 「二人になれるの今が最後かもだから、言っときたいんだけど」 「何?」  沙希は気を紛らせたいのか、お湯を手のひらで右へ左へ押し流しながら言う。 「私のワガママで、パパとの結婚遅くさせちゃって、ごめんね」 「え?」
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