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「ママと最初に会った時って、今の私くらいの年だったでしょ? こうして自分がこの年齢になってみたら、これから何年も結婚の目処が立たないと思うと、不安だし焦るし、このままこの人といていいのかな? って、きっと私だったら思ってると思う。ましてや、赤の他人の娘までいて……しかも全然かわいくない、イヤな子供で……私だったら、逃げてたと思う」
「沙希……」
「すごく悪いことしたなって、後悔してる。十年も待たせて、もしそのせいでママが子供を産めてなかったら……って思うと、今もゾッとする。だから、勇希が」
沙希の張りのある声は、涙を交えていく。
「勇希が、生まれてくれたことが、ずっと私の救いになってる。でもママには……きっと本当に、つらい思いや、不安や、出産の苦しさも、たくさん味わわせちゃったから……私のせいで、本当に、本当にごめんなさい」
ぽろぽろと涙を流す沙希を、私は思わず抱き寄せた。
そんなことを考えさせてるなんて、思いもしなかった。
「ばかだね、沙希は」
二人の間に割って入ったのは、私の方なのに。
「そんなこと私、気にしてないよ。沙希の気持ちを優先させるのは、当たり前のことだよ。それもできないんじゃ、恭吾さんの妻になる資格ない」
「でも、私はパパとは他人で……」
「そんなこと、パパも私も思ってない。それに私はね、最初から沙希が可愛かったよ。本当に、可愛かった。幸せにしてあげたいと思った。なかなかできなかったけどね」
笑った私の耳元で、沙希は声を上げて泣き出した。
タオルを巻いた頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。
「私の方こそごめんなさい。すぐに去っていれば沙希は幸せだったのかもしれないけど、沙希に対しても恭吾さんに対しても、意地になってた部分もあったのかもしれない。絶対諦めないぞって。勇希のことだってそう。絶対産むぞって。もしかしたら勇希の存在が沙希を悲しませるかもしれないけど、悲しむ隙がないくらい二人とも大事にしようって。……そう考えると、私、けっこう欲張りなんだな……」
「なにそれ」
いつもの呆れ口調が返る。
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