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「……ママの体、柔らかいね」
「もう肉が落ちない年なのよ」
沙希は、ふふ、と笑う。
「あーあ、子供の頃にもっと素直になって、ママとくっついて寝てればよかったな」
「そんな気持ちあったの?」
尋ねると、沙希はしばらく考えてから言った。
「……ううん、大嫌いだった。恋敵だもん。でも一緒にいてくれて、本当はすごく心強かった。ごはんも、楽しみだった」
その言葉を聞いて、全てが報われていく気がした。
あの頃、いつまでも冷たい態度を崩さない沙希に、自分なりに試行錯誤しながら向き合った時間は、無駄じゃなかった。
そう思った途端、すっと涙が頬を伝っていく。
人と人とが通じ合うのには、時間がかかることだってある。でも、愛情を注ぎ続ければ、それは必ず相手に伝わるんだ。自分のためではない、純粋に相手を思う気持ちだったなら。
「もう暑いから離して」
そう言った沙希を解放すると、あの頃には到底見られなかった、日だまりのような笑顔が私を包んでくれた。
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