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「パパと結婚するってことはね、沙希ちゃんのお母さんになるってこと――」
「そんなの許さない」
冷たい、低い声が鋭く走る。
沙希はゆっくりと寝返りを打ち、仰向けになった。僅かに視線をこちらに流し、
「パパは私と結婚するの。あなたなんかに渡さない」
そう敵意を込めた声で言い放つ。
「……え?」
私はきょとんとしてしまった。
パパと結婚……。
そうか、沙希はまだ、子供なんだ。
パパが大好きで、パパと結婚したいと思っているほどに。
そう考えた私は、無意識に少し表情を緩めていたらしい。まともに聞いていないと悟ったのか、沙希は瞳を大きくして問いかける。
「冗談だと思ってる? 親子で結婚なんかできないって?」
「まぁ……、そうよね、気持ちはわかるけど……」
「そう、パパから何も聞いてないんだ」
「え?」
すると、嘲笑を交えた口元から、予想もしなかった事実が告げられた。
「パパと私、全くの他人なの。当然血はつながってないし、戸籍上もなんの関係もない。だから結婚できるの」
「――え……」
「そんなことも聞かされてないなんて、アハハ、かわいそう~!」
沙希は笑う。心から楽しそうに。私を馬鹿にしたように。
「私はパパが好き。あなたがパパと出会うよりもずっと前から。だからあなたがパパと結婚するなんて絶対に許さない。許すわけない」
突き刺すように言うと、満足したのか沙希はまた背中を向けた。
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