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「誰?」  いわゆる幼子の可愛さを脱し、思春期目指して手足を伸ばし始めた年頃のその女の子は、初めて家を訪れた私に敵意を込めた眼差しを光らせた。  彼女は、私の彼氏の娘。小学四年生。  たった二文字のご挨拶は、問いかけではなく拒絶なのが明らかだった。 「水島百合香さん。パパの彼女で……」 「あっそ」  小さく吐き出して、テーブルの上に広げられた宿題へと時間を戻していく。 「沙希、連れてくることちゃんと話してあったでしょ。百合香さんにご挨拶して」  彼――恭吾さんが優しく促す。 「私、良いって言ってないし」 「どうしてそんな態度なの? いつものかわいい沙希ちゃんを見せてよ」 「まあまあ」  私は恭吾さんの腕をそっと抑えた。 「大好きなパパの彼女なんて、そんな急には好きになれないよねぇ。恭吾さん、今日は私これで帰るね」 「えっ、だって……」 「いいの。沙希ちゃんの顔見れただけで満足だから。沙希ちゃん、ケーキ買ってきたから、パパと食べてね」  そう言うと、彼女はめんどくさそうにこちらを一瞥して、 「……どうも」 「沙希。ありがとうございますでしょう? そんな態度じゃ嫌われるよ」 「だって、頼んでないし」 「そうだよね。いいのいいの。私が買いたくて買ってきただけなんだから」 「ごめんね、百合ちゃん……」 「ううん、じゃあまたね。沙希ちゃん、また来るね」  無言のままの彼女を見届けてから、私は一人外に出た。  これが、沙希と私の出会いだった。  
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