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土曜日の午後、いつも決まった時間に、私は必ずそこを訪れる。
そうして電話と時計とを交互に見つめつつ、時に辺りを探し、また、イライラと空を見上げる。
そこには私と同じように誰かを待つ人、人、人。
最後の一組が目の前から消えるのを見届けると、私はようやくその場を後にする。
ふと見ると、映画館の入り口から少し離れたところで、二組前に立ち去ったペアが喧嘩をしていた。
"みろよ、映画がもう始まっちゃったじゃないか。これじゃあポップコーンも買えやしない。君が遅れたせいだぞ"
"そんな、あなただって前回は同じことをしたじゃないの。おあいこよ"
まあまあ、赦してやんなさいよ。
貴重なふたりの時間のためにも、チケットを無駄にしないためにも、ここは怒りを納めて、途中からでも楽しめばいいじゃないか。
老婆心に、心の中で宥めながら、先ほどまでの自分を思い、ひとり己を恥じた。
来週も、
さ来週もまたわたしはここに来るだろう。
君を待つために。
はじけるような君の笑顔と、何とも言えない安堵感と、気の緩みを味わうために。
もう二度と、君は来ないと分かっているのに。
(おわり)
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