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転機
そんな苦手意識を持ったまま迎えた3年目の春、5月の大型連休に開催されるゲームショウへの出展準備に追われていたプロジェクトチームに衝撃が走った。
直前になってネオトリガーというライバル社が人気の対戦型ゲームタイトルの新作をそのゲームショウでお披露目すると発表したのだ。
こちらは、桜庭課長の発案で開発を進めていたメッセージアプリを発表する予定だった。
メッセージアプリ市場を独占中の外国産のものに取って代わる、電池消費もメモリの圧迫も少ない軽量の国産のアプリを、というコンセプトで、ただメッセージのやり取りをするだけでなく、キャラの育成やボイスチャット付きのミニ対戦ゲームの要素もつけて、とっかかりはメッセージではなくゲームからでもいいから、少しづつシェアを伸ばしきたいという意気込みで満を持してお披露目するはずだった。
しかしこのままでは、ネオトリガー社に全て持っていかれる。
そこでプロジェクトチームが苦肉の策として急遽企画したのは、ミニゲーム内に出てくる「ジーエム伯爵」のコスプレを桜庭課長にしてもらうというものだった。
GM――つまり、ゲームマスター。もともとこのジーエム伯爵は、どことなく桜庭春樹に似せたキャラデザインだった。
桜庭春樹といえば、この業界では知名度が高い。
その人物が麗しいコスプレで登場すれば、それをとり上げてくれるメディアも多いだろう。
よく本人がOKしたな。
わたしは丸っきり他人事のようにそう思っていた。
まさか自分が巻き込まれるとも知らずに――。
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