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「ジーエム伯爵だけでは弱いという意見があって、使い魔の猫のメルちゃんも添えようってことになったんです」
「はあ…それで?」
最初は、ゲームショウを担当するチームの開発部の人がなんでそんな話をわたしにするのか、さっぱりわからなかった。
「ですから、そのメルちゃんのコスプレを田辺さんにやってもらえないかとお願いに上がりました!」
頭を下げるその人のつむじを見ながら、何言ってんだこの人…と思って黙っていると、
「お願いします!もう時間がないんです!OKもらえないとチームに戻れません」
と泣きついてきた。
じゃあ戻らなきゃいいじゃん。知らないよ。
「なんでわたしなんですか?そういうの、セミプロみたいなコスプレイヤーさんにお願いすればいいだけでしょう?」
「ですからっ、もう外注は間に合わないんですっ!」
「わたしなんて使ったら大失敗しますよ?」
「そんなことないです!ジーエム伯爵との身長差がちょうどいいし、色白だし、声もカワイイし、完璧なメルちゃんに仕上げてみせますから、どうかお願いしますっ!」
結局そこか。
背の低さとアニメ声で選ばれたってことね?
「ちなみにこの件は、桜庭課長もOKしているんですか?」
「もちろんです」
へぇ~。
急にイジワルな気持ちがむくむくと芽生えてきた。
「じゃあ、桜庭課長が直々に頭下げに来たら考えます」
「ええっ!?そ、それはちょっと…」
「そうでなきゃ、お断りします」
ピシャリと言ってイスをくるっと机の方向へ戻すと、自分の仕事を再開した。
どうせ桜庭課長は来ないだろう。
田辺ひなたが「おまえが頭下げに来い」って言っていた――そう聞かされた彼はどんな顔をするんだろうか。
それだけで日頃の仕返しができた気がして気分がよかった。
来るはずがない――そう思っていた桜庭春樹が営業部のフロアに現れたのは、その日の夕方のことだった。
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