転機

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 メルちゃんというジーエム伯爵の使い魔は、セクシーでキュートな猫で、髪はピンク・目は紫・胸を強調したふわもこ素材のビキニと、それとお揃いの、パンツが見えそうどころかほぼ見えている尻尾付きのマイクロミニスカートにガーターベルトというキャラだ。  なぜか張り切りだしてコスプレ準備チームに参加することになった静香が見事なリーダーシップを発揮して衣装を用意してくれたし、エステにも連れていかれた。  ピンクの髪は洗えばすぐ落ちるスプレーを使用する予定だったけれど、真っ黒な髪のままだと色が乗りにくいということで、ライトブラウンに染めた。 「いっそピンクに染めちゃう!?」 という迷惑な申し出は丁重にお断りした。  4日間、巨大な催事場を借り切って開催されるゲームショウの初日、わたしと桜庭課長は、お互いのコスプレを向かい合ってじーっと見たまま固まっていた。  黒いフロックコートに同じく黒のロングブーツを身に着けた桜庭春樹は、ジーエム伯爵そのものだった。  かっこよすぎるんですけどっ…!!  それに対して、ヘソ出しでこの幼児体型を惜しげもなく晒し、エロ猫に変装しているわたしは何なんだろうか。  心配症の兄が見たら、顔を真っ赤にして怒るに違いない。 「いつからそんな露出狂になったんだ」  桜庭課長にまで、顔を背けられながらそんなことを言われて泣きたくなった。 「だから嫌だって言ったんですよう!こんなキャラを作ったのは、あなたでしょーが!」 「嫌なら断れよ。それに、俺がデザインしたわけじゃない」  彼の耳が真っ赤に見えるのは、わたしが紫色のカラコンをつけているせいだろうか。 「でもこのデザインでOK出したのも、このコスプレをしてくれってわたしに泣きついたのも桜庭課長でしょう?このヘンタイっ!」   ブースの前で言い争っていたら、それをパフォーマンスと勘違いしたのか、カメコことカメラ小僧たちが集まって来た。  メディアだけでなく、個人のSNSでもとり上げてもらってナンボだ。  こうなったら、弾けきってやりますニャーッ!!  開き直って振り切れた「メルちゃん」と、キャラなのか素なのかわからない不機嫌そうな「ジーエム伯爵」は大層話題になり、ライバルのネオトリガー社の独り勝ちを防ぐことにどうにか成功したのだった。
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