桜庭課長とわたし

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「やったね!!」  そのメッセージとともに、水色のクマがムキャー!と叫びながら見悶えているスタンプを送った。  送るとすぐに「既読」がついたものの、彼からの返信はないだろう。  きっと、眉一つ動かさずにスマホの画面に視線を落として、すぐにまたPCの画面に戻ったにちがいない。  「またバッキーにメッセ送ってんの?てゆうか、いつもほぼ一方通行だよねぇ。アンタ、ほんとにバッキーと付き合ってんの?自作自演だったりして!」    休憩スペースで、さきほどの火照りをクールダウンさせようと喉を潤しながらメッセージを送っているのを同期の新井静香(あらいしずか)に覗かれた。    誰かに覗かれたりするのも想定内でやり取りしているため、相手がまさかの桜庭課長であることは誰も気づいていない。  さくらはるの文字をとって「バッキー」というニックネームなのだが、周囲には「馬鹿だからバッキー」と言ってある。 「あのねえ、わたし、そんな見栄っ張りじゃないからね?」  振り返って反論すると、静香が勝ち誇ったような顔で見下ろしている。 「だってアンタ、お兄ちゃんのことをカレシとかって言ってたじゃん!」 「ちょっ、違うから!あれは見栄で言ったんじゃなくて、お兄ちゃんが勝手にみんなの前でそう言っただけでしょ!」  入社して間もない頃、職場の飲み会が盛り上がって帰りが遅くなり、心配症の兄が迎えに来たことがあった。  誰?とみんなが訝しがる中で、兄は「ひなたの兄です」ではなく、あろうことか「ひなたのカレシです」と言いながらわたしの肩を抱き、それがあっさりと受け入れられてしまったがために、それからしばらくわたしは 「あの子、付き合ってる男いるからなぁ。しかもイケメン!」 と知らないところで言われ続け、合コンのお誘いも素敵な出会いも一切なかったのだ。
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