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カタカタとキーボードを叩く音で目を覚ました。
体の向きをかえてその方向を見ると、ローテーブルでノートパソコンを広げ、おそらく仕事をしている感じの桜庭課長の後ろ姿が見える。
あぐらをかいて、たまに頬杖をついて首をかしげていると思ったら、またシャキッと姿勢を正してキーボードを叩く。
オフィスで仕事をしているときとは少し様子の違う、おそらくこれが素の彼の姿なのだろう。
職場では年齢詐称疑惑まで飛び交うほど誰に対しても高圧的な態度をとる桜庭春樹も、こうして見ると普通の27歳の男性に見える。
にしても、休日に、しかも人の家でまで仕事をしているとは…。
「桜庭課長、帰らなかったんですか?」
かすれた声が出た。
のどがカラカラに乾いている。
「ん?起きたか。熱のある子をひとりにできないだろう」
「いや、わたし、子供じゃないので大丈夫です」
「俺が心配になって気になるから嫌なんだ。ああ、でも途中で鍵を預かって一旦パソコン取りに行って戻って来たけどな」
そう言いながら立ち上がり、冷蔵庫からイオン飲料を取り出してコップとともに持ってきてくれた。
ごくごくと一気に飲むと、身体の中に染み渡るように水分が下りていくのを感じて心地よかった。
「もう大丈夫です」
額に貼られたシートをぺりぺり剥がして丸める。
起き上がってもクラクラしない。
多分もう熱はないだろう。
体温計、どこに置いたっけ…と思っていたら不意に目の前が暗くなり、何事かと思ったら桜庭課長が額をわたしに押し当てて熱を測っているのだと気づいて、叫びそうになったところで離れていった。
「熱はなさそうだけど、顔が赤いな」
いやいやいや、それ、あなたのせいですからっ!
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