転機

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「なっ、何やってるんですかっ!」  驚いて大きな声が出てしまった。  額同士で熱を測るだなんて、家族か恋人か、親密な関係でないとしないことだ。 「ああ、これ」  そう言って桜庭課長が指さした先には、わたしの愛読書、TL漫画が並んだ本棚がある。 「仕事の息抜きに読んでみたらおもしろくて、こういうシーンがあったから、ついやってみたくなった」   ええぇぇぇっ!いつの間に!  しかも、おもしろかったですと!?  時計を見ると、19時を少し過ぎたところだった。  たしかこの家に来てくれたのが15時過ぎで、わたしが寝たのがその30分後ぐらいだったはず。  そのあと課長はパソコンを取りにご自宅と往復をして?仕事をしながらどの漫画を何冊読んだんだろうか…?  仕事の資料も目を通すのがやたらと早いとは噂にきいているけれど。  桜庭課長が遮光カーテンを開けると外が明るくて、え、夜なのに!?と思いながら、別の可能性に思い至って恐る恐る聞いてみた。 「課長…いま午後7時ですか?それとも午前7時ですか?」 「ん?この明るさを見ればわかるだろ、朝の7時だ。随分ぐっすり寝ていたな」  ええぇぇーっ!  わたし、何時間寝たのよ! 「あの…桜庭課長は寝てないんですか?」 「まさか。雑魚寝させてもらったし、勝手に洗面所とトイレも借りたしキッチンも使わせてもらった。一応、そのたびに声をかけて、なんかムニャムニャ返事していたけど、覚えてないのか?」  随分くつろいでらしたのね。  意外と、図太い性格なのかも? 「悪かった。恋人がいるって知らなかったんだ。会社の同期とはいえ、男が泊まったとなれば相手はおもしろくないだろうから、揉め事になりそうだったら言ってくれ。俺からも頭を下げて謝罪するから」  はあっ?いきなり何の話? 「いえ…恋人なんて、いませんけど?」
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