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「いえ…恋人なんて、いませんけど?」
男性とお付き合いしたことならある。
一応、処女でもない。
しかし、長続きしないまま終わり、しかも入社してすぐ、兄が勝手に「ひなたのカレシです」とか言いやがったせいで、社会人になってからはご縁すらない。
桜庭課長はキョトンとした顔で、この部屋のあちこちに男用と思われる私物を見かけたから…と言った。
「ああ、それなら、お兄ちゃんの物です。お兄ちゃんがよく遊びに来るし、たまに泊まったりもするので」
「随分と仲のいい兄妹なんだな。俺にも妹ならいるが、妹に頻繁に会いたいだなんて思ったことすらないが」
「どうなんでしょうね、個人差があるんですかね?うちのお兄ちゃん、心配症が過ぎる人なので」
「まあ、そういうことならよかった」
桜庭課長の唇が弧を描く。
ホッとしたような笑顔にドキっとさせられた。
「じゃあ俺はこれで帰るから。シャワーも浴びたいし」
手早くパソコンの画面を操作して、パタンと閉じられたその音に、急に寂しくなった。
病気のせいで心細かったのかもしれない。
親しくもないのにここまでしてくれた桜庭課長をこれ以上引き留めてはいけないと思いながらも、せっかくだからもう少し……。
漫画の感想を聞きたいんですがっ!!
「どうした、そんな寂しそうな顔をして。もっと俺と一緒に居たいのか?下の名前で呼んでくれたらその願いを叶えてやってもいいけど、どうする?」
桜庭課長の口角がイジワルそうに片方だけ上がる。
「桜庭課長…」
「ん?」
「それ漫画に出てきたセリフですよね?」
「あははっ、当たり」
それが、わたしと桜庭春樹との不思議な関係の始まりだった――。
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