桜庭課長とわたし

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 大学在学中に桜庭自身が開発した健康観察アプリが大ヒットして、アプリ開発界の次世代エースとして一躍有名になった彼は、引く手あまたのオファーの中から、大学の先輩でありアプリ開発の相談にも乗ってもらっていた杵淵の会社を選んだ。  ドットアークは彼の採用内定が決まると、業績拡大を見越して新卒採用の追加募集をし、そこでどうにか拾ってもらったのがわたしだった。  エントリーシートも精力的にたくさん送ったし、就職セミナーにも積極的に参加して頑張ったにもかかわらず、最終面接までこぎつけた数社からもよい返事がもらえないまま就職先がなかなか決まらず焦っていた。  そんな折、短大の就職担当から「たった今、入って来たところ。営業アシスタント2名、追加募集だって」という求人情報を渡され、その場で即電話をかけてみたら 「とりあえず、今すぐ来られるなら来て」 と言われ、急いで帰宅してリクルートスーツに着替えてドットアークに向かい、社長と幹部5人がズラっと並んで座る前で面接を受けた。  志望動機は?と当たり前のことを聞かれ、正直に「たった今、入って来たところだと言われたので勢いで電話しました。この子を採用してよかったと思っていただけるように精いっぱい頑張ります!」と、思い返すたびによくあれで内定もらえたなと思うようなお粗末な受け答えで春からの採用が決まったのだった。  これは後になって杵淵さんから直接教えてもらったのだけれど、採用の決め手は――わたしの、母親譲りの「アニメ声」だったらしい。
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