桜庭課長とわたし

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「桜庭課長、3分お時間ください」  ミーティングを終えて出てきたところを捕まえようとしたら電話がかかって来て、その通話が終わるのを彼の視界に入る位置に立って「あなたに用がある」と目で訴えながら待ち続け、ようやく声をかけた。  桜庭課長の机はいつも書類や本が山積みになっていて仕事ができる状態ではないし、同時進行している多くのプロジェクトに係わっているため、彼はフリーアドレス状態でいつもどこにいるのかわからない。  やっと探し当てたと思ったらこれだ。 「1分」  次の仕事に足早に向かう彼とは足の長さが違いすぎるため、歩調を合わせようとするとこっちは駆け足になる。  わざとだろ!と思うぐらいの速さだ。 「4月21日納期予定のチェルシーさんの案件、5日短縮していただけないでしょうか」 「断る」 「そうおっしゃらずに、どうにかなりませんかっ…!はあっ、ちょっと待って~!」  速すぎだっつーの! 「先方にも事情があることぐらいは察している……だが、断る!」  廊下の突き当りの会議室のドアを開けながら、桜庭課長はこちらに冷ややかな視線を送って来る。 「だいたい、なんでいつも田辺さんが来るの?そっちの課長が頭下げに来ないのは、なぜ?」 「営業の川村課長が頼んだら考えていただけますか?」 「断る」  ほら、誰が来たって一緒だから、わたしが生贄にされてるんだよっ!この悪魔っ!
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