暗殺家業

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暗殺家業

「今日はこれね」 手渡された書類に目を通して、母……いや、主人に聞かれないように小さくため息をついた。また人殺しか。まあ、仕方ない。これが私の仕事だから。 私の一族は代々、裏社会の暗殺家業を請け負っている。国に仇なす不貞の輩は勿論、個人的な恨みを持った人までターゲットは様々だ。 「御意」 「チヨメ」 頭を下げて部屋を出ようとすると、主人が私を呼び止めた。 「今回だけは絶対にしくじらないで」 釘を刺すような言い方に、思わずゾクリと背筋が震える。この恐怖に一体何人が犠牲になったのだろう。そしてこれからも。 「心得ております。では、失礼致します」 足早に部屋を出て、自室に向かう。さあ、今夜のターゲットを仕留めるための準備に取りかからないと。 今回のターゲットは割と簡単だ。ある秘密を握る資産家の息子をだまくらかして、いつもみたいに頚椎を一突き。故に、私のコードネームは蛇。その名の由来通り、得意なのは相手の心につけ込んだところを仕留める、というやり方。 相手が男でも女でも関係ない。私は天性に持って生まれた“人誑し”だから、どんな相手でもこれで仕留められなかった奴はいない。 いつもよりめかし込んで、黒いドレスを見に纏う。もちろん腰に入れられた一族の証と、コードネームを示すタトゥーは綺麗に隠した。 さあ、今夜も狩りに出かけようか。
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