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舞踏会
暗殺の舞台はとある舞踏会。甘ったるい匂いと、身体中を這うような視線にゾクゾクする。その感覚に浸りながら、今夜の獲物を探す。入り口付近に立ってフロア中に目をやると、一際鼻につく匂いを纏った男が見えた。
あいつだ、今夜私の毒牙にかかるのは。資料で見た通りいけ好かない顔をしてやがる。
じっと見つめていると、不意にこちらを見た。だからニコリと広角をあげて、熱っぽい視線を投げる。するとその男は舐め回すような視線を私に投げ返しながら、手に待っていたグラスの中身を全て煽った。よし、食いついたな。
目線を外さないように誘うような顔をすれば、女達の間をすり抜けて私のところへやってくる。
「今日は来てくれてありがとう。お一人かな?」
いかにも紳士を装ってはいるが、中に飼っているであろう獣の気配が消し切れていない。こういう奴は簡単だ。少し餌をチラつかせれば一撃。
「えぇ。パートナーがいなくって。もしかして今日はパートナーがいるのかしら?それなら私はお暇した方が……」
一度視線を下げて、再び相手の目を見る。そして眉を下げて見せた。
「偶然だね。私もパートナーがいないんだ。よかったらこの後、私の部屋で飲み直さないかい?相手がいた方がお酒は美味しいだろう?」
するとその男はスッと私の腰に腕を回して、ニタリと口角を上げた。だから少しもたれかかって、顔を寄せてやる。
「よろしいの?でもちょっと飲みすぎちゃって……」
また熱の籠もった視線を投げれば、より近くに腰を引き寄せられた。
「なら、少し休むといい。僕の部屋に案内するよ」
サッと私の手からグラスを奪って徘徊していたボーイに渡すと、腰に回っていた手が尻にまで下がってくる。
「お優しいのね。お言葉に甘えさせていただいてもいいかしら?」
だからより密着して甘えた声を出すと、食いついたという顔をする。それはこっちのセリフだよ、この猿め。
「もちろん。さあ、行こう」
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