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逃走劇
「ただの女じゃないとは思っていたが……その見た目と鉄扇……それと腰に貼ってあるシールを見てピンと来たよ。蛇だね」
その男の言葉にはっとした。主人がしくじるなと言ったのは、この男が私たちのことを知っているからなんだ。
私たちの一族は、誰一人として存在を知られてはいけない。それが知られている。なぜだ。私たちの一族を見て、生き残っているものなどいないはずなのに。
「お前たちも詰めが甘いよな。“目撃者全員”を殺さないと、いずれは尻尾を掴まれるぜ?」
そうか。ターゲットになるであろう人物を見張らせていたんだな。だが今更それに気付いたってもう遅い。鉄扇が手から滑り落ちた。
もう声も出せそうにない。でもここにいたら間違いなく、拷問にあって殺されてしまう。それなら……!
最後の力を振り絞って窓に突進する。ガラスが全身にぶつかってきて背骨が軋むが、かろうじて着地して、私は走り出した。
「くそっ!追え!逃すな!」
後ろから男の声がするが、振り返っている余裕はない。だがもう本部にも帰れないだろう。帰ったところで暗殺の練習がてらに殺されるだけだ。それなら逃げてしまおう。
誰にもバレないように、身を潜めて生きていこう。そう決心して私は、ひたすらに遠くを求めて足を動かした。
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