4人が本棚に入れています
本棚に追加
たどり着いたのは
あれから数ヶ月。なんとか逃げ延びた私は今、ナゴミ町という故郷から遠く離れた町で暮らしている。
「チヨメ、朝ごはん食べる?」
白衣にポケットを突っ込んでいるのは、この町唯一の診療所の医師、フローレンス。私はフローって呼んでる。まともなご飯も食べられずに死にかけてた私を介抱してくれて、今じゃ面倒を見てくれている恩人だ。
「あ、食べる!お腹すいた!」
えへへ、と笑って見せれば、フローは呆れたように笑った。
「はいはい。ちょっと待ってて」
フローの背中を見送ってふと外を見る。滅多に見ることのなかった青空を、今こうして普通に見られている。それが不思議でしかたなかった。そして世界とはこんなにも綺麗なものだというのも、ここに来てから知った。
青い空と海、照りつける太陽、そしてそれに負けないくらい温かい人たち。こんな世界初めて見た。世界とは自分が思っているより広いんだなあ。
なんて珍しく考えていると、誰かの気配がした。追っ手か?と慌てて気配を消して身構えたが、どうやらそうではないらしい。
「フローレンス、いるかい?」
ドアから顔を出したのはいかにも善人。と言った風貌の老人だ。
「フローなら今キッチンにいます。お呼びしましょうか?」
声をかけると、老人の肩が跳ねる。しまった、気配を消したまま話しかけてしまった。そりゃびっくりもするわ。
「おお、人がいたのかい。おや、お前さんは……」
じっと何かを見定めるような視線に少し焦る。何か知っているのか?まさかこんなところまで情報が漏れている?
最初のコメントを投稿しよう!