転機

1/1
前へ
/16ページ
次へ

転機

「フローレンスが娘を拾ったと言っていたんだが……どうやらお前さんのことだったらしいね」 ふにゃりと柔らかく笑うと、私のところに寄ってきてくしゃりと頭を撫でられた。 「何か事情があるんだろうが、聞きやしないよ。この町の食べ物で腹を満たして、同じ海風に当たっていれば家族みたいなもんだからね」 家族。私には一番縁遠い言葉だ。母は残酷な人だった。失敗を許さない鬼のような人で、優しさゆえに仕事をしくじった父を見世物に殺し、そこから一族を恐怖で縛り付けている。 当時幼かった私はあまり父のことは覚えていないが、唯一覚えているのが父に頭を撫でられていたこと。この老人の手はその手に似ている気がした。 「ありがとうございます」 グッと目頭が熱くなって思わず俯くと、老人が優しく笑った。 「あら、町長さん。来てたんだ。なんか用事?」 その時フローの声がした。この人町長さんだったのか。 「おお、フローレンス。久しぶりだね。お前さんが拾った娘の顔を見に来たんだが……この子、うちで預かってもいいかい?」 えっ?私?思わず町長さんを見上げると、優しく笑っていた。 「チヨメがいいなら私はいいけど」 どうする?と私の顔を見てくる。 「チヨメというのかい。なら、チヨメ。お前さん、うちの屋敷で働くといい。もうこの町には慣れただろう?そろそろ仕事もできるんじゃないか?」 どうだ?と町長さんが私の顔をじっと見る。確かにそうかもしれない。稼いでいるとはいえ、いつまでもフローの世話になるわけにもいかないし。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加