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転機
「フローレンスが娘を拾ったと言っていたんだが……どうやらお前さんのことだったらしいね」
ふにゃりと柔らかく笑うと、私のところに寄ってきてくしゃりと頭を撫でられた。
「何か事情があるんだろうが、聞きやしないよ。この町の食べ物で腹を満たして、同じ海風に当たっていれば家族みたいなもんだからね」
家族。私には一番縁遠い言葉だ。母は残酷な人だった。失敗を許さない鬼のような人で、優しさゆえに仕事をしくじった父を見世物に殺し、そこから一族を恐怖で縛り付けている。
当時幼かった私はあまり父のことは覚えていないが、唯一覚えているのが父に頭を撫でられていたこと。この老人の手はその手に似ている気がした。
「ありがとうございます」
グッと目頭が熱くなって思わず俯くと、老人が優しく笑った。
「あら、町長さん。来てたんだ。なんか用事?」
その時フローの声がした。この人町長さんだったのか。
「おお、フローレンス。久しぶりだね。お前さんが拾った娘の顔を見に来たんだが……この子、うちで預かってもいいかい?」
えっ?私?思わず町長さんを見上げると、優しく笑っていた。
「チヨメがいいなら私はいいけど」
どうする?と私の顔を見てくる。
「チヨメというのかい。なら、チヨメ。お前さん、うちの屋敷で働くといい。もうこの町には慣れただろう?そろそろ仕事もできるんじゃないか?」
どうだ?と町長さんが私の顔をじっと見る。確かにそうかもしれない。稼いでいるとはいえ、いつまでもフローの世話になるわけにもいかないし。
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