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炎に包まれ、次々に兵が失われていく。
わずかの者に導かれて進む貴人の姿があった。
「宮は先に城を出て、この者らと落ち延びてください。……宮の御父君は生涯何度も難所を逃げ落ち、決してあきらめることがなかった。宮はその御父君の御子です」
「……お前はともに来ないのか」
「あとから必ずまいります」
「しかし……」
この状況で、とても生きて再会できる気がしなかった。
「宮、我が一族は古(いにしえ)より義を奉じて〝生き抜くこと〟に智と武を用いてまいりました。必ずや。……さ、はやく」
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まただ。またこの夢だ。
怪しげなメールを開いて、戻れないことも覚悟して怪しげな事務所に行き、気づいたらずいぶんと時間が経っていて、帰宅した晩からいくつかの〝レパートリー〟からなる夢を何度も何度も見るようになった。
そのせいとは思ってはいないものの、……私はこの出来事ののち、望まない形で長く続けた仕事も辞めている。
最近はこの夢がほぼエンドレスだ。
自分の中にある重く閉ざされた扉を開きたいと望んだのは自分であるが、この扉はやはりパンドラの箱だったのだと後悔することもある。
仕事を変えた上に、コロナでの就業難につけこまれ、ネットで稼ごうみたいな類にも嫌な思いをさせられた。SNSではビジネス、スピリチュアル、出会い系で私をカモと狙うかのような投稿や広告ばかりが届き、ある日とうとうブチ切れて、〝友達〟の半分以上を削除した。
そうして数か月が経った頃だった。
「〇〇の戦いを学ぶ会」
歴史好きの私が閲覧したり投稿したりしている記事の履歴から導かれたと思しき投稿がフィードに現れた。
〝〇〇の戦い〟はよくわからなかったけれども、イラストやロゴが自分好みでかっこよかったし、好きな時代だったし、参加費も良心的で、参加人数もそれほど多くないのが気に入った。
会を主宰しているのは若い男性だった。
「こんなマニアックな会なのに、主催者はおじいちゃんとかじゃないんだ……」
その意外性を内心おかしく思いながら、私は会に参加することにした。
会では月に何回か、オンラインで勉強会がある。いつもいつも同じ顔ぶれの、会の中でも特に熱心な会員が参加する。私にはよくわからない話も多かったが、熱い雰囲気とうらはらに穏やかな人柄のメンバーが好きで、毎回参加していた。
その日は、ある地方での合戦のことを学んだ。
戦乱の時代を、義のために流離の人生を送った心優しい皇子——その宮の謎の生涯と、宮をお守りした一族の話だった。
「あ!」
私は心の中で叫んだ。
会の主宰は、この宮が大好きなのだと語って微笑んだ。
この日以来、私はあの夢を見ていない。
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