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背後の扉が破られ、一人の赤黒い外套を羽織った男が飛び込んできました。
僕は咄嗟に剣を抜き、ヘンリー様を庇うように立ちふさがりました。
そして、僕にめがけて振り下ろされたその剣が僕を切り裂く寸前に受け止めました。
「……!?」
…ですが、受け止めただけでした。
敵の剣は戦場でも浴びたことがないほどに重く、弾き返すことが出来ず、必死に受け止めるだけで精一杯でした。
…しかし、想定外は敵も同じだったようで一度距離を取り直してから、再度切りかかってきました。
「…!ガキのくせに…!!」
「ヘンリー様!!絶対に動かないでください!!」
逆行したその男の剣は僕の手のしびれが消えないうちに先程の僕ごとヘンリー様を叩き切るための力まかせな剣ではなく、早く、匠な剣で襲いかかりました。
最初の一振りだけからでも分かる程に、明らかに敵の剣は僕に見切りきれるほどの剣術ではありませんでした。
ですが、ヘンリー様に当てるわけにはいかないのでとにかく回避を避けながら一撃ごとに剣を受け止め、受け流し続けました。
しかし、その瞬き1つできないような戦いの中、一撃受け止めるごとに僕の体には途方も無い負担がかかっていたようで時間が立つに連れて僕の体に傷が1つ、2つ、と増えていく、背後からヘンリー様の弱々しい悲鳴が聞こえました。
(いけない、このままだと…ヘンリー様が…!)
その思考は瞬きをする暇もないはずの戦いの場では致命的でした。
見上げると、敵は僕の隙に気付いたようで上段に構えてから力一杯に振り下ろすところでした。
流石に、これは受け止めきれない。ならせめて…!!
僕が剣を捨ててヘンリー様に覆いかぶさろうとしたときの事でした。
「…何っ!?」
ガシャンと激しい音を立ててに特殊技術で強固に加工されたはずの窓ガラスが投擲された一本の剣によって粉々に砕け散りました。
そして、そのまま剣は速度を落とすことなく一直線に敵の頭に目掛けて突き進みました。
ですが、攻撃を中断し、ぎりぎりの所で回避した敵の頭にその剣が突き刺さることはありませんでした。
敵の鼻先を掠め盗り、反対の壁に深々と突き刺さるにとどまりました。
ですが…、
「最後まで剣を捨てるな、相変わらずの馬鹿か…?」
体制を崩した敵の背後から、真っ黒なローブを被った背の低い少年が現れました。
少年は、一切の躊躇いを見せることなく腰の剣を抜き、敵の背中から、心臓、胸を一直線に貫きました。
しかし、ただ襲撃者も殺られるだけではありませんでした。
胸を抉られておきながら、体格差を利用してむりやりに振り向き少年を蹴り飛ばし、その手の剣でもう一度、僕達目掛けて切りかかってきました。
ですが、その攻撃は僕達に届くことはありませんでした。
先程までの剣技が見る影もなく、苦しげで、遅い敵の攻撃よりも先に敵に蹴り飛ばされたはずの少年が当たり前のように涼しい顔で、そのまま空中で姿勢を立て直し、地面に着くや否や敵の…、次は首を切り落としたからです。
「ルカ…?」
激しく動いた少年の、フードの隙間から、血のように赤い髪の毛が一瞬見えました。
…僕はそれに対して、見覚えがありました。
「…今はコウモリだ。その名前で呼ぶな。」
コウモリ…?は剣の血を落とし、崩れ落ちた敵の亡骸をどけながら忌々しげにそう吐き捨てました。
そして、外の様子を見てから一度舌打ちをし、感謝する間もなくすぐに踵を返して外の戦場へ戻って行こうとしました。
「ル…コウモリ!今の戦況は?」
「…すぐに終わる、後ろの護衛対象を見てろ」
コウモリは足を止めることなく、それだけを言い残し、今度こそ、立ち去りました。
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