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おまけ4
おまけ4
南にいるのもつかのま、あっという間に僕達は自国に帰り着きました。
その道中、怪我人を乗せていた馬車の中に一緒に乗っていたお兄様に怪我のことを聞かれ、怪我を見せるととても驚いた表情をしていました。
そして、帰り着くや否や僕はまず医務室に抱え込まれ、いくつかのかすり傷だと思っていた傷が思っていたよりも深いことが告げられました。
(お医者様が言うのに僕は戦っている間からずっととても緊張して、興奮していたために痛みが分からなくなっていたようです。)
そのせいで僕はお医者様とお兄様の両方から絶対安静、そして僕にとっては少し長めの休暇が与えられることになりました。
ですが、ただベッドの上で怪我が治るのを待ち続ける時間は僕にとってはとても退屈で、辛かったです。
…そして、療養施設に入ってから何日目か。
太陽が空の真上に登り切る前頃に僕の部屋に1人の来訪者がありました。
「ん?思ったよりも元気そうじゃん」
「鎮痛剤とお医者様の腕がすごいですから…」
その相手はあまり、会いたい人物ではありませんでした。
ヒース様には、この前の任務で僕達のためにかなり無茶をさせてしまったと聞いています。
実際に目の前で見ても、あちこちが包帯ぐるぐるまきで、普通なら動けない怪我に見えました。やはり、ここの鎮痛剤とお医者様の腕が物凄いのでしょう。
「なら、動けるな。車椅子出してやるから一緒に出掛けない?暇なんだよ俺も」
「……でも…見つかったら怒られます」
「大丈夫大丈夫、ここのお姉さん達は俺が言いくるめるとくしセルヴェル様もヒース様も今から緊急の会議、見張り番もまだ動ける体じゃないからな、どう?」
反論することのできない隠蔽の準備っぷりでした。
それに、僕は外へ出かけるということに対する欲求が爆発仕掛けていたので物凄く迷いました。
そして、しばらくの間ベッドの上で葛藤していると、療養施設の作業員も1人、訪ねてきました。
「すいません、…あ、お客様がいらしていたのですね、お届きの荷物ここに置いておきますね」
手紙を1通届けてくれたようです。手紙は部屋の中の小さな机の上に置かれました。
「ふ〜ん、あの封蝋。多分ヘンリー様だね」
その言葉に驚き、急いで手紙を手に取り、中の手紙を取り出してみるとそこにはヘンリー様の名前が書かれていました。
「これは返事書かないといけないな〜、お前便箋とか持ち分あるの?」
「………ないです」
「俺、いいとこ知ってるけど?」
「…少しだけですよ…怒られますから…」
観念したようにその答えを出した僕にヒース様は満足したようでいつも以上にニコニコ…、ニタニタ?しながら「車椅子借りてくるから準備してろよ!」と部屋を出ていきました。
流石に…そこらへんの紙に書いて送るわけには行きませんから、…仕方がないのです。
〜〜〜
「へ〜、あのヘンリー様とそこまで仲良くなるとはね」
「向上心があって、気さくでいい人です」
「お前には、だろうけどなぁ」
僕達は必要な買い物を済ませ、近くの小さな飲食店で甘いくて丸いパンを食べていました。
ヘンリー様はフォード様とヒース様の親戚?本家筋?にあたるそうです。
ですが、僕が見たヘンリー様の姿はお二人が見たことのないものばかりだったようでヒース様は「あのヘンリー様がねぇ…」と嬉しそうに僕の話を聞いていました。
「…ところで、ヘンリー様とセレス様の話はした?」
「ヘンリー様と?…セレス様の話ですか…?」
突然出てきたセレス様の名前に僕はとても驚きました。
その2人に接点が、関係があったのでしょうか。
「そうそ、あの2人短い間だったけど軍の学校でさ、同期だったから。すぐにヘンリー様が軍の研究機関に併設されてる学校に移ったから本当に短い間だっただろうけど。交流もあったみたしだし」
「いえ、特には…」
その返答に「そっか、触れづらいとこだろうしね」と答え、手元の薄い赤色をしたグラスをクルクルと回しました。
ありのままに、セレス様の影に囚われずにお兄様の弟として生きると決めたものの、やはりセレス様のことは気になっていました。
ですが、ヘンリー様にどう聞いたらいいものか……
そして、…まさか…本当にまさかとは思うのですが昼間から飲酒をしているのでしょうか…?
なんだかヒース様、普段よりも饒舌だし、こころなしか顔が少しだけ赤く見えるような…?
「…」
「大丈夫、薄いやつだから」
ヒース様は僕の不審げな視線に気付いていたようです、そして、…やはり飲んでいたようです。
そのまま僕はがっくりと肩を落とし、呆れたように「ヒース様、流石に飲酒は怒られます。それにそろそろ時間ですし帰りましょう」と諭したのですが「もうちょっとだけ」とヒース様はなかなか動きませんでした。
僕は車椅子で来ているのでヒース様を引きずって帰ることができません。
どうしようか、と迷っていると店員さんに「すみません、お連れの方…?がいらっしゃったようですがその…相席よろしいですか?」と確認に来ました。
ここで人と会う約束はしてなかったはずなのに…と表の方に振り向くと…そこには笑顔を引きつらせたフォード様と、普段とあまり変わらない無表情のセルヴェル様が立っていました。
「えっ!?ちょ…嘘、流石に早すぎませんか?」
ヒース様も流石に驚いて酔いが覚めたようで突然機敏に動き出しました。
「予定よりも早く終わってね、そしたらコウモリが二人が出ていくところを見た、と言っていたから見に来てみたのさ」
「あの野郎…あんだけ怪我しといてまだ動けるのかよ…」
ヒース様が言っていた監視、というのはコウモリだったようです。コウモリは…よほどの怪我を負っていたのにまなあれだけ涼しい顔をして機敏に動き回っていたようです。
ちゃんと、今度お礼をしないと。
…でも、またルカに会うのは少し…
「帰るぞ」
ヒース様とフォード様はすでに多めに支払いをしてから店を出たようで、僕と、お兄様、二人だけが残っていました。
「その、お兄様…申し訳ありません…」
「いや、いい。気を遣ってやれてなかった私のせいでもある」
僕はお兄様に叱られると思って小さく萎縮しましたが返事は予想外のものでした。
「しかし、な。せめて一言かけてからにしろ。それに事前に伝えてくれれば私が連れていくのに…」
「そんな…、お兄様にわざわざお手数をおかけさせるなど…」
「次の週末を開けておけ。行きたい場所も考えておけ、まだ近場までしか許さんがな」
「…はい!」
僕の言葉を遮るように話し始めたお兄様はどこか不安そうで、落ち着かない様子で、普段の威厳のあるお兄様とは違った様子でした。
僕は、お兄様に本当にごめんなさい、という気持ちと。なぜか、嬉しいという気持ちを感じました。
ですが…
「しかし、帰り着いたらまず仕置だ…覚えておけ」
「……はい、お兄様」
そのお兄様が長く続くことはなく、気がつけばいつもの軍人で師匠のお兄様に戻っていました…。やはり、…かなり怒らせてしまっていたようです。
〜〜〜
その後、僕は病室でお医者様が乱入してくるまで長い折檻を受けました。
ですが、ヒース様はこれよりもきっとこっぴどく怒られていることでしょう。
そして、次の日に僕の病室にはお兄様宛のたくさんの郵便物が届けられました。
僕がお兄様から字を教えて頂いたときに使った絵本、きらびやかな装飾がされた新品の図鑑や剣術、戦術の教科書、戦術の授業で使うゲームの盤面とコマ、分厚い学術書、そしてぬいぐるみ…?など。そのプレゼントはどれもお兄様らしいものでした。
すこし難しそうなものが多そうですが、次の週末まで暇でどうしようもない時間はこなさそうです。
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