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過去
僕が少年兵として招集できる最低限の年齢になった年の次の春、すぐに軍隊から軍人さんが二人来たらしいです。
そして、僕達4人の孤児を連れて行く代わりにたくさんのお金が入った袋を孤児院の院長先生に渡したそうです。
いつか、一緒の孤児院から来たお兄さんが言っていました。
「お前はまだ小さかったから覚えていないだろう」とも。
実際に僕は知りませんでした。同じ孤児院から来た残りの2人の顔や名前すら知りませんでした。
それは軍に来てからすぐに僕達はその年集められた子供の中から5人ずつに分けられていたため、最低限の生活をするためには5人以外と接する機会がほとんどなくなったからでしょう。
5人行動の理由は、集団行動の練習ため、らしいです。
最初の5人は僕、お兄さん、ルカ、そしてすぐにいなくなってしまって今ではもう顔も思い出せない2人でした。
…2人はすぐに会えなくなった、班からいなくなってしまったからです。2人がすぐに消えた理由はあの頃の僕にはよくわかっていませんでした。…気にしてもいませんでした。
そして2人が消えてすぐに僕達3人と他の2人になってしまった班が組まされ、5人になり、また2人減り、2人増えて5人になり…。
長い間僕達はそれを繰り返し続けていました。
なので、僕はルカととても長い時間を近くで過ごしました。
でも、ルカはあのころから人と話すのが嫌いで、特に弱い人、無能な人と話すのが嫌いだったので、僕はほとんどルカと話したことがありませんでした。
僕が近寄るといつもローブのフードをめぶかにかぶってどこかに行ってしまいました。
少年兵の中でも群を抜いて強いルカに数え切れないほど行われた班内訓練で僕が一度も勝てた試しがなかったからでしょう。
でも、一方的に叱られることはよくありました。
ルカはいつも訓練中に床に這いつくばった僕に怒っていたからです。あの日も…
〜〜〜
「う…あぁ…!!」
いくら必死に剣を振っても、肉弾戦に持ち込んでも、ルカの髪の毛一本切り落とすことすら叶いませんでした。
そして、回避したルカがそのまま僕の身のうちに潜り込み、強く握りしめた拳は僕の顎を的確に捉えました。
「振りが甘い、それに簡単に剣を離すな、その手は飾り物か」
「つ……うぅ…」
目が周り、全身に衝撃が走りました。僕の手には剣の感触はなく、かわりに遠くに落ちている姿がおぼろげに見えました。どうやら今日も僕は床の上で寝ているようです。
「もう一度立て、訓練にならない」
ルカは拾ってきた僕の剣を僕に投げつけました。
「わかっ……てる!」
その余裕に溢れた態度が、的確なアドバイスが嫌いでした。どれだけがんばっても追いつかけない彼の技術が、才能が嫌いでした。
〜〜〜
弱い僕に対する彼の怒りはいつも集合の合図がかかるまで収まりませんでした。
集合の合図がかかるとルカはいつも呆れたような顔をしてから誰よりも早くに教官の元に向かいます。
でも、僕は集合の合図がかかってもすぐに行けなくて、重い体を引きずりながらルカの背中を追いかけていました。
〜〜〜
…いつしかたくさんあった班が3つだけになってしまった頃、僕達は本当の班の意味を知らされました。
期間ごとに各班の優秀な者だけを残し、選別することで人材を発掘していた、らしいです。
消えた者は雑兵に、残った者はさらなる訓練を受けた後に下級兵士もしくは中級兵士のそば付きの候補になるらしいです。
その言葉を聞き、残った皆は喜びました。お兄さんも喜んでいました。孤児である僕達が本来の手段では得られなかったであろう地位だからです。
でも、僕は喜べませんでした。
僕は他のみんなと違って異動の命令が書かれた1枚の紙を渡されたからです。
中流貴族の出身で上級兵士なのに、やたらと前線に行きたがることで有名だという、セルベル様の元に。
最初は嘘だと思いました。
こんなにも大切な任務は…あるとしたら、もしかすると少年兵卒で初めて中級兵士になるかもしれないと噂されているルカに与えられるはずです。
…それに、弱いはずの僕にはこんな任務は無理なはずです。
何度も教官に確認しました。でも、帰ってくる返事はいつも同じで…。
教官の考えがどうしても分かりませんでした。…そして僕を推薦したフォード様という上級兵士様の考えも。
そんなこんなで僕はずっと悩んでいて、訓練にも集中できず、異動になるまでいつもより多めにルカに怒られていました。
上級兵士様のそば付きになるだなんてまわりに相談できるはずもなく、…もちろんルカに相談するわけにもいかなかったからです。
でも、異動のその日、迎えの馬車が来て乗り込もうとしたとき。皆が訓練中のはずその時間にルカが1人、追いかけて来ました。
「…ルカ!?今は訓練中のはずじゃ」
「うるさい、それよりも…お前これからセルヴェル様のところに行くんだろ」
「…」
ルカは、弱い者はとても嫌いですが逆に強い者はとても好きで…セルヴェル様にも憧れていました。
なので、ルカにこのことが、セルベル様の元にこれから僕が向かうことがバレていると知り、何も言えず、俯いてしまいました。
「お前はお前が思っているよりは強い」
「え…」
「うるさい、行け」
そう言い残してルカは訓練に戻っていきました。追いかけようにも出発の時間が迫っていてもう馬車からは降りれなくて…あの時も結局お礼は言えませんでした。
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