分かれ道の先

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分かれ道の先

 小刻みに揺れる馬車の窓から見える景色は以前通った時と比べてたくさんの花が咲いているせいかとても色鮮やかに見えました。しかも去年はあちこちの畑で豊作だそうで今年の農業を始めるために忙しそうに道を行き交う人々の表情はどれも明るかったです。 「あとどれぐらいで付きますか?」 「今日は前ほど急いでいないからな、道中の村で一泊して…天気が崩れなければ到着は明日の昼過ぎだろう」  今窓から見える山脈の間を越えるにはまだまだ時間がかかるようです。そう、南の国へ再び向かうために。 〜〜〜  コウモリと戦ったあの日の午後、僕は部屋に帰ってお兄様がお帰りになるのを今か今かと待っていました。しかし、お兄様は予定の時間になっても中々帰ってきませんでした。予定の時間から時計の針が1つ離れていくごとに、僕の頭の中でヒース様の言葉が反響して、不安で、怖かったです。  お兄様がお帰りになったのは日が落ち、月が登り始めたころでした。 「…!お兄様、お帰りなさいませ」  お兄様は無言で部屋に入ってくると手に持った二通の手紙を懐にしまってから僕の頭を撫でました。 「またせたな、それに、…私のせいで悪かったな」  お兄様の視線は僕の腕に向けられていました。シャツの袖からはみ出た僕の腕に紫色の斑点がついていることに気付かれたのでしょう。 「お兄様、何があったんですか?それに…」  僕はそんなお兄様に必死にかきつきました。お兄様は自分のせいだとおっしゃっていましたが僕にはどうしても僕のせいだとしか思えなかったからです。 「私も少し、混乱していてな。少し整理する時間をくれるか?」  僕の声はお兄様に遮られ、言い切ることはできませんでした。  しかし、お兄様の声はひどく疲れ切っていて、僕はそれ以上問い詰めることができませんでした。 「今夜は遅くなったから先に寝ていてくれ、それと医務室に行ってその傷を一度診てもらっておけ」 「あ、はい。お兄様…」  そのまま僕は急かされるようにして部屋を出ました。そして、お兄様はその道中目を合わせてくださらず…何かに苦しんでいるようでした。  でもきっと、明日になればその原因も分かるはず。  僕は自分にそう言い聞かせて、これ以上お兄様を苦しませないためにもその場を後にしました。
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