分かれ道の先

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 医務室で喧嘩の話を笑われながら簡単な処置をしてもらったあと、お兄様の仮眠室の隣りにある元倉庫、現僕の仮眠室の布団に入ったのですが…やはりというか、なんというか…案の定なかなか眠れませんでした。  僕はそのまま一睡もすることができないまま朝を迎えました。少し眠たいきもしますがこのまま布団にいても特に何もないことを察した僕は早めに支度をしてお兄様を待つことにしました。  身支度を済ませて仮眠室を出るとちょうど部屋から出てきたお兄様に出くわしました。  昨日のままの軍服であることや寝癖がついてない姿を見るからに徹夜をされていたのでしょうか。 「あ、お兄様…おはよう御座います」 「あぁ、もう起きていたか」 「はい、その、なかなか寝付けなくて」 「…」  お兄様がもう起きているとは思ってもおらず、心の準備をしていなかった僕は必死に普段通りを装うとしたもののうまくいかず、どこか硬い返事になってしまいました。  しかし、それはお兄様も同じだったようです。その理由に、お兄様は最後に何かを言いかけようとしてやめ、目をそらされました。  そして、二人の間に沈黙が流れました。 「…このあと時間はあるか?」  お兄様は何かを決められたようで顔を上げました。 「はい、大丈夫です」 「なら、場所を移そう」  僕は善は急げとでも言わんばかりに歩きだすお兄様の背中を追いかけました。 〜〜〜 「ここなら大丈夫だろう」  僕達は軍の外、お屋敷に帰ってきました。  このお屋敷はお兄様が保有している仕事用のお屋敷です。  なので僕達以外には週に3度訪れる使用人しか来ません。そのため、内密な話をするには最適な場所でした。 「結論から言うと私は一時的に軍から離れることになった」  お兄様の最初の一言は僕の予想よりもずっと大変なものでした。  その衝撃は測れるようなものではなく、僕は言葉を失い、呆然と座り込んでいることしか出来ませんでした。 「お前は馬車の中にいたから分からなかったかもしれないが…この前の護衛任務中の襲撃者は基本的に東の反政府派、まあ戦争を中断したことをよく思っていない連中だったんだが…その中に一部、見慣れない剣術を使う者がいてな。」 「不審に思ってフォードに調べてもらったところ東の反政府派にこの大陸の外から支援を行っている国がいることが判明してな、この冬は難しいとして来年の夏までには東の反政府派と支援国で同盟国を作るために東内部で大きな内戦が起こることが分かった。しかし、まぁ…弱りきった今の東政府なら数日も持たないだろうし対策の仕様もないだろう。」  お兄様は片腕になったとはいえとてもお強いです。そんなお兄様が先日の強襲で苦戦したという話は少し疑問に思っていました。  ですがここで謎が晴れました、片腕だったからではなくまったく見知らぬ戦術をとる相手であったからこそ苦戦なされたのでしょう。 「その国がもし、できたら…どうなるんですか…?」 「やつらの目的はこの大陸4国の統治、戦争は免れん」 「…なら、なぜお兄様がこのタイミングで軍を離れることになったんですか」  これが今回の1番の疑問でした。お兄様はとてもお強いので戦力になるはず、ここで離れる理由が分かりませんでした。 「これから我が国では同盟国や外国諸国に対する守備のために軍内のあちこちで再編成が行われることになった。上級兵士は数に制限がある、隻腕になって年々力も衰えているうえにフォード達のように戦略にたけていない私が今までの功績だけでこれ以上居座り続けるなどよほどの権力が支えていないと無理だ、昨日までのようにな」 「そんな…」  ヒース様の手を打った、というのはこのことだったのでしょうか。フォード様は中々のやり手で政治や軍内、産業など幅広く関係を持っているという噂話を聞いたことがあったのですが、権力というのはフォード様のことなのでしょうか。  この前の護衛任務で僕が…不甲斐なかったせいで…。僕がお兄様の足手まといになったせいで…。  だったら…弱い僕が足手まといだから、僕を絶対に手放さないお兄様は…僕のせいで軍から離れさせられるのでしょうか。 「やはり、聞いていたか」  昨日のコウモリの、ヒース様の言葉を思いつめるように思い出していた僕を見て、お兄様は何か気付いたようでした。 「フォードがあってこその今の私の地位だ。剣術しか取り柄のなかった私にフォードが価値を感じなくなったなら仕方のないことだ」  それでも、僕は自責と後悔でいっぱいで、壊れてしまいそうでした。  僕が、お兄様の足手まといになったから、お兄様の片腕以上の立場を望んで、夢見てしまったから。お兄様はこんな結果になってしまった。  そして、僕も… …お兄様が軍人でなくなるなら、僕はもう、片腕としての役目はなくなるのでしょうか。
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