分かれ道の先

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 目が覚めると、一度見たことがあるような、無機質な天井が目に映りました。 「…軍の…医務室…?」  お屋敷でお兄様と話をしていて、それから…。 「ぅっ…」  少しずつ思い出すごとに胸が痛くなって、ここからいなくなってしまいたくなる。嫌だ、怖い。嫌だ。  胃が熱くなり、喉の奥が酸っぱくなる。 「はい、ストーーップ!!!」  大きな物音をたてながら飛び込んできたのは軍内屈指の変わり者、医務室でいつも診てもらっている医務官の先生でした。 「瘴気みたいな空気が外まで出てるぞ!!思いつめるのもいいけど拗らせるなよ病人!!」 「あ、先生…僕はどうしてここに?」 「そりゃお前、セルヴェル様宅で過呼吸起こして倒れたからよ」  そういえば、最後の方にとても苦しくなって、意識がなくなった気がする…ような…? 「先生、僕…」 「セルヴェル様がしばらく軍から離れるんだろ?知ってるよ、有名人だし」 「…」 「やっぱりそれで思い詰めて倒れたのか、でも別にお前だけのせいじゃねぇさ」 「でも…」 「甘々すぎるうえに兵士の正しい使い方ができなかったセルヴェル様や止めれなかった周りもだいぶ問題だろ?」 「…」 「それにな、まず前提が間違ってるんだよ」 「前提、ですか?」  ずっと俯いたままだった僕は突然出てきたその言葉の意味が分からず、思わず先生と目を合わせてしまいました。  その僕の姿を見てニッと笑った先生は廊下に出ていったと思ったら、すぐにセルヴェル様を度付きながら帰ってきました。 「セルヴェル様!?」 「10分だ、セルヴェル様。また無駄に喋って悪化させるなよ?今言いたいことだけ言え、いいな?」 「あぁ…」  お兄様は昨日にも増して疲れ切った顔をしていました。また先生と口論になったのでしょうか。 「勘違いをさせてしまったようだな」 「勘違いですか?」 「お前は私が軍人でなくなったことに責任を感じているのだろう?」 「は、はい…」 「私は、剣を握る機会が減るのは惜しいが…軍人でなくなることについては今も悔いてはいない。ここまでの選択も全て最善だったと考えている」 「…え」 お兄様は誰よりも強くて、お兄様は前線に行ってばっかりで…。誰しもが強い軍人の鏡として、英雄として褒め称えるお兄様。  そんなお兄様が一時的とはいえ軍人でなくなることに、上級兵士にでなくなることに悔いがない。  僕は、お兄様のことが分かっていなかったようです。 「そして、ここまで来れたのはお前のお陰だ。お前とだからここまで来れた。だから、ここから先も一緒に来てほしい」  目の前に昨晩見た二通の封筒が並べられました。封筒を手に取る僕に頷くお兄様の姿を確認してから、僕は恐る恐る封筒を開けました。  そこに入っていたのは3枚の紙でした。  1枚目はお兄様が一時的に軍事学校の先生になるための紙。  2枚目は僕が軍事学校の推薦生徒として入学するための紙。  そして、3枚目は… 「父上にお前を養子として迎えてもらえることになった。だから…お前がよければ正式に弟として来てほしい」  うずくまっている時のように真っ暗だった目の前の視界が明るく、明るく輝き出すのが分かりました。 「本当に、本当にいいんですか?」  僕はただの足手まといじゃなかった、ここまでの道のりに意味があった。僕の存在に意義があった。  もしかするとそうなのかもしれない、と考えると、悲しくもないのに鼻の奥が痛くなって、涙がぽつり、ぽつりと流れ落ちました。 「…!…あぁ。あぁ、いいとも」  お兄様は安心したように大きく頷きました。  僕はそのお兄様の胸に飛び込み、子供のように泣きじゃくりました。
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