南へ

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 お兄様と南への留学が決まったあと、僕達はすぐに軍事学校に招集され留学するための勉強の日々が始まりました。  僕はとりあえずは中級兵士程度の座学を目標に、お兄様は上級兵士までの座学の復習が目標でした。  僕は少年兵時代ずっと体術や剣術ばかりを学んでいて、進学しなかったために座学を学ぶ機会がなかったのでほとんどが1からかお兄様に教えてもらった続きからでずっと覚えきれるかどうか不安でした。  お兄様は答えはあっているものの理由になると直感的な話になりすぎていらして教官がずっと苦笑いしていました。  そんなこんなでなんとか数ヶ月の集中講義を乗り越え、僕達は南の王都までやってくることができました。南に来る最後までフォード様や、コウモリ達と合う機会はなくて、フォード様とセルヴェル様が仲違いをしたという噂も、どうしてフォード様がセルヴェル様を守ってくれなくなったのか、どうしてコウモリが僕にあんなに怒っていたのか、たくさんの謎を残して来たことは心残りでした。  久しぶりに来た南の国内は季節のせいか前よりも、どこも緑に溢れていて無機質で似た形の多い僕達の国の建物と違った温かみがあって変わった形をした建物がたくさん立ち並んでいました。  南の王都につくと今度はたくさんの兵士が僕達を出迎えてくれました。  僕達10人の留学生と3人の先生はまず都の真ん中にある大きなお城の玉座の間というところに案内されました。  そこは、絵本の中の景色がそのまま出てきたかのような豪華絢爛な場所で、どこか居心地が悪くてむずむずしました。  しかし、部屋の一番奥にいる王様は絵本の王様よりもずっと若く見えましたがその部屋と1つになったかのように馴染んでいてとてもかっこよかったです。  そして、その王様の後ろには7人の兄弟、王族の方々が並んでいました。南では基本的には王族の方々が政治から軍事まですべてを執り行っておられるそうで、どの方もとても威厳があって、知的に見えました。  王様から歓迎の挨拶を頂いて、セルヴェル様が代表で挨拶をなさって合唱団の演目を聞き…たくさんの工程をえてようやく僕達はお城を後にすることができました。  お城を出た後は留学生が迎えに来た生徒とともにそれぞれの分野の学校に向かって出発しました。 「僕達はどんな場所にむかうんですか?」 「私達は南の士官学校だな、もうそろそろ迎えが来るはずだ」 「迎えの人、どんな人でしょうか。怖い人じゃないといいんですけど」 「士官学校の今年の上級兵士候補で主席の生徒らしいが、どこかで聞いたことがある名前だった気がするな…」  南の国の人は皆肌が日によく焼けていて、体が大きくて少し怖い見た目の人が多いのでこれから会う人を考えると少し緊張しました。  しばらくすると、行き交う人の群れから一人の女性が近付いてきました。僕はその女性に何か困りごとかな、と思って近づいて行きましたが、女性は僕達の前に立つとスカートの片側をつまみながら片膝を曲げ、恭しくお辞儀をしました。 「すいません、着替えに手間取ってしまだて。お待たせ致しました、リーシャです」  リーシャ…リーシャ、たしかに僕もどこかで聞いたことがある名前です…たしか… 「お初にお目にかかります、第4王女殿下。まさかあなたが上級兵士候補の主席だったとは」  セルヴェル様は彼女の姿と名前から彼女の本当の姿を思い出したようですぐさまお辞儀を返し、僕も慌てて続きました。  彼女の姿は先程まで玉座の左右に並んだ王族の列で見たはずなのに、僕達の国とは違う肩口が開いたデザインで、たくさんの花や羽で飾られた豪奢なドレスから動きやすい訓練着に着替えた王女様はどこか雰囲気が違っていて気付くのに時間がかかりました。 「第4王女様、ということはヘンリー様の婚約者の…」 「えぇ、あなたがノア様ですね。ヘンリーから良い友人だと聞いております」  リーシャ様は南の国民と同じよく日に焼けた健康的な肌で、栗色の髪の毛を編み込んだ髪型と吊り目が特徴的な綺麗な女性でした。  そして、握手した手にはたくさんの剣だこが出来ており、ただの王女様ではない、と改めて思いました。 「そして貴方様がセルヴェル様ですね。中央国の英雄から直々にご教授頂けると聞いてとても楽しみにしておりました」 「…お手柔らかにお願い致します」  同盟を結んでいる南でもセルヴェル様は英雄として有名だそうで、王女様は憧れと期待に満ちた目(…まるで狩人のようです)をセルヴェル様にむけており、セルヴェル様は少し気まずそうでした。 「それでは今日はまず町と士官学校を案内させて頂きます。そして、その後は一度王宮に戻ってもよろしいですか?」 「王宮に僕達が入っていいんですか?」  留学生という特殊な立場とはいえそこまでの権限はないはずなので、僕は少し疑問に思いました。 「えぇ、ヘンリーと第二王子アンジュ殿下がお待ちですから」  そんな疑問に対する回答は嬉しさとともにさらなる疑問を呼びました。
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