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「ヘンリー様、お久しぶりです!」
「ノア!」
僕達は南の都を巡ってから王宮の奥深くにある王族の方々の寝所が集まる区画にやってきました。お兄様とリーシャ様はご用事があるようで僕達は二人きりで久しぶりの再開を果たすことになりました。
ヘンリー様の寝所は外のきらびやかな作りとは違い、中央でよく見るような落ち着いた色合いの家具で統一されていました。
きっとヘンリー様が過ごしやすくするために改造されたであろうこの部屋は僕にも家に帰ってきたかのような安心感を与えてくれました。
「今日の式典出られなくてごめんね、それに都の案内に本当は僕もついていきたかったんだけどどうしても外せない実験が入っちゃって」
「なるほどそれで…それよりもヘンリー様ずいぶんと痩せられていないですか?」
久しぶりにお会いしたヘンリー様の表情は以前よりも明るくなっていて、南ではうまくやれていることが分かったので安心しました。
ですが前にお会いした時でさえ平均的な体型と比べると十分細かったヘンリー様はさらに細くなられており、どこかやつれている雰囲気もありました。
「やるなら本気でが僕達のモットーだからかなさ、それに今は繁忙期な上に実験が佳境だから…。やっぱり僕体が悪そうに見えるのかな、リーシャ様にもよく心配されるんだ。」
「リーシャ様はとてもお優しいんですね」
「うん、そうなんだ。ここに来るまではお兄様と一緒にいらっしゃる所で何回かあったことがあるだけでさ、その、少し怖そうだと思ってたんだけど優しい人で…。優しい、というかなんだろう。ものすごく心配性というか…なんというか…」
「でもリーシャ様は僕をお兄様と重ねていないみたいだから…家よりも居心地はいいよ」と自虐的に笑うヘンリー様の話は少しだけ見に覚えのある話でした。
「それよりも都はどうだった?中央と全然違うでしょ」
「はい、山脈を挟んでいるだけなのにこんなにも違うものなんですね。あちこちに踊っている人がいますし食べ物も全然違いますし…不思議な気分です」
どこを見ても軍に関わる建物が見え、軍服をまとった人々が静かに動き続けている僕達の国とは真反対のような国でした。
「本当にうるさすぎるぐらいの賑やかさだよね、たしか、宗教的な違いが根本的らしくて…うん、特に神様の違いだったかな。」
「神様ですか?」
「なんかね、人は皆神様に祝福を授けられながら育っていって、祝福を十分に受けた人は楽しく陽気な人になるんだって。逆に祝福を十分に受けなかった人は冷たい悪い人になって…1番悪いと犯罪や争いにつながるらしい」
「じゃあ街の人は祝福されていることをアピールするために歌って踊っているんですか?」
「いや、それは違ってね。祝福された人の歌や踊りからは神様ほどじゃないけど祝福の力が得られるらしくて…祝福されてない人を減らして国全体を栄えさせるためにあちこちで歌って踊っているらしいよ」
僕にはその考え方が少し楽観的すぎるようにも思いした。でも、正義とは何か、悪とは何かについてを考え続ける、厳格で重々しい僕達の国の考え方よりはいいのかな…と少しだけ思いました。
「あ、あと街に南の人とはまったく違った姿をした人もいたんですけれどもあの人たちはいったい誰なんでしょうか」
「多分外国から貿易に来た人たちか、キャラバンかな…南は資源が豊富だから大陸で1番貿易が盛んなんだ。それに南は元々キャラバンと外国から流れてきた人達でできた国だから色んな文化があるのかもな…」
「…ヘンリー様は物知りですね」
僕の疑問に何でもすぐさま答えを返してくれるヘンリー様の知識量に僕は呆気にとられました。
「一様南の王族の末端だからね」
ヘンリー様は誇るように胸をはってみせましたが、滲み出る哀愁はまだ隠れていませんでした。
「そうだ、この前王族っぽい服をようやく仕立てられたんだ。月末の宴に着る予定だから見に来てくれないか?」
ヘンリー様のいう宴というのは南の国内で季節ごとに行われる大きな宴のことでしょう。先程までのヘンリー様がおっしゃっていたことから考えると祝福をもっと広げるために行われるのでしょうか?
「あ、たしかその日は僕達も出席予定なので絶対に見に行きます!」
「じゃあその日こそ僕が迎えに行くよ、次の宴は留学生と王族で席が近かったからそのまま連れていけるし」
「はい、お兄様にも伝えておきます。えっとあと…」
この後も僕達は夜が更け、リーシャ様が迎えにいらしてくれるまでなんということのない話を続けました。
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