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おまけ1
おまけ
鼻歌交じりに階段を登りフォード様の執務室を目指す。
執務室に辿り着き、無駄に凝った装飾が施された重い扉を開けると中にいたフォード様と目が会いすぐに不機嫌そうに俺を睨んだ。
今日はうまく巻いていたつもりだったがまだフォード様の"お気に入り"に監視されていたらしい。
「ヒース、私はあの少年に近づけとは言ったが脅せと言った覚えはないぞ」
「弱点を教えてあげるのは近しい人の仕事でしょう?」
「だとしてもやり方が悪い」
「それに、あれはフォード様も本人の口から聞いてたかった情報じゃないですか?」
「………」
相変わらず反省する仕草の一つも見せない俺を見てフォード様はため息を付き眉間を抑えた。
「あれがセルヴェルが悪魔だなんだ言われはじめてから周囲の振る舞いに敏感になっているのは知っているだろう」
「まあ英雄になるっていうのはそれだけ敵を作ってるってことですしね、そういうものですよ」
「ならせめて仲間内でぐらい安心させてやれ」
「過保護だなあ」と呟こうとしたその時、俺の喉元めがけて後ろから腕が回り込んでくる。避けようとするも足払いされて床に転んでしまい俺の喉には冷たく尖った金属の先端が押し付けられた。
犯人はコウモリ、いつもフードを深々と被ったちんちくりんでフォード様のお気に入りだ。
「ちょっおいおい、仲間内でぐらい安心させるんじゃなかったのか?」
「…コウモリ、離してやれ」
「どうしてこうも私の部下は元気がありすぎるのかね」と呆れながらフォード様は机の二番目の引き出しを開け1枚の書類を取り出す。
「コウモリ、今日はもうヒースの監視はいい、次の仕事の書類を夜までに読んでおいてくれ」
「…」
コウモリは黙って書類を受け取り廊下へ向かう。すれ違いざまにそのコウモリの肩を叩き「また速くなってるだろ、今日は見えなかったよ」と褒めてみるも「…嘘つき」とそっけない返事をしてコウモリは去っていった。
セルヴェル様のところの灰色毛玉と違ってつれないもんだ。
「あの少年も、弟として生きることに賛成していたとはな」
コウモリが立ち去った後、フォード様はどこか物憂げに話し始めた。
「まあ、あれは本気でしたね」
「…お前はあの偽りの関係に意味があると思うか?」
「あえていうならセルヴェル様達みたいな人には今みたいな狂った世界では救いが必要なんじゃないですか?」
その答えを聞き、フォード様は窓の外を眺めながら黙り、考え込む。
「今みたいなセルヴェル様の方が魅力的ですけど、また弟を失ったら……フォード様の大好きなセルヴェル様が壊れちゃいますもんね」
「そうさせないための…私達だ」
フォード様は何かを決断したようだった。たとえそれが早々に偽の兄弟を分かつための計画であったとしても、世界から弱い兄弟を守り続ける計画であったとしても支える俺たちにはとてつもない苦難が待っているだろう。
でも、フォード様がどっちを選んでいたっていい、諦めたっていい。
俺たちはフォード様に付いていくだけだから。
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