新たな任務

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 護送任務当日、僕達は早朝から出発拠点となった都から遠く離れた地方都市のお屋敷の中で任務開始にむけて準備を整えていました。 「これで…いいのかな…?」  目の前の鏡に映る僕の姿はいつにも増して豪奢で輝いているのに加えてとても不安そうに見えました。  昨晩お兄様から「明日の任務用に」と頂いた服は今まで僕が着た服の中でも群を抜いて仕立ての良いものでした。そのためか装飾や形状…?がとても美しくて綺麗なのですがどうしても着るのが難しくて正直これが正しいのかが分かりません。 「大丈夫大丈夫、そんな人前に出るわけでもないし着れてればそれでいいさ」 「そんなわけにはいかないでしょう、お兄…セルベル様の顔に泥を塗るわけにはいけませんから」 「俺の前ではお兄様でいいよ、そっちのほうが慣れてるでしょ」  うっと言葉に詰まる僕のことに薄っぺら笑顔を見せつけてくる男、…僕よりもずっと早くに身支度を終えて退屈そうにしていたヒース様にどうやら狙いを定められたようです。  なんでもいいと言う割には僕と違って完璧にその豪奢な服を着こなして余裕な表情をしている姿から、その言葉は嫌味にしか聞こえませんでした。 「ついでに俺のことも…」  あからさまにヒース様が追い打ちを仕掛けようとした瞬間借設置された控室の扉が開き、お兄様とフォード様が入ってきました。  お二人も今日は特別な任務だからか礼服を着ていて、とても格好が良かったです。(…僕もお二人ぐらい身長が伸びたらこの短いマントではなくあの軍服の長いマントを付けてみたいです。) 「悪い、軍議が少し長引いてしまった。待たせてしまったかな」 「本当ですよフォード様、それで?どうするんです?」 「お前には第5部隊を率いてもらうから下に1度隊員を集めて待っていろ、それと…あぁ、悪い。騒がしくしたな、ここにいても邪魔だろうから失礼するよ」  しかし、フォード様はヒース様に「今日は何もしていないだろうな」と念入りに確認し、セルベル様に目配せをしてからヒース様を連れて下に行ってしまいました。  今回の任務をセルベル様に依頼したのはフォード様だと聞きました。そのために今回は普段よりもお忙しいのでしょう。 「無事に着れているようで良かった」  お二人の足音が遠のいたことを確認してからお兄様が言いました。 「えっと、はい、頑張りましたから!……あの…ここはこれで、大丈夫ですかね?」 「…あぁ、そこはそこではなく右に通すんだ。貸してみろ」  恥ずかしさを抑え込んでお兄様に確認してもらうとやはり何箇所か着方を間違っていたらしくお兄様に直してもらっている間に僕の顔はどんどん熱くなってしまいました。 〜〜〜  僕の気付け直しが終わってからすぐに別室にセルベル様の部下を招集し、会議が始まりました。  今回の任務は情報漏洩を危惧して今の今までほとんどの情報が隠されていたのでとても気になりました。  それに、今回の任務の同行者は見た限り皆柔軟的な思考に長けたお兄様もしくはフォード様がよりすぐった兵士ばかりで僕に何ができるのか、それがとても気になりました。 「今日はこの後護衛対象か影武者のどちらか1名、護衛1名のそれぞれを乗せた本命1台、ダミー4台の馬車5台で護衛対象を輸送する。私達は先頭の馬車に、第一部隊を率いる。索敵部隊を始めとした隊列は…」  その会議中、一人、一人と見知った兵士に任務が告げられていく中とうとう僕の詳しい任務内容は明かされませんでした。  会議が終わった後に僕はセルベル様に呼び出されました。 「お兄様、僕は今回…何をすれば良いでしょうか?」 「…」  お兄様は少し不満げに顔を曇らせた後に諦めたように言いました。 「お前は前方より3台目、真ん中の馬車の中で貴族の子弟のふりをしながら対象の護衛に当たってもらう。そこで対象を守りきるのがお前の任務だ。」 「…!?、は、はい…分かりました。」  初めての防衛戦で最後の砦である護衛を任されるとは思っていなかったので、僕の背中を1筋、嫌な汗が流れました。 「第三部隊はフォードがいる、それにこの前のお前の剣も悪くなかった、期待している。守ってみせろ。」 「…!必ずや…お兄様のご期待に応えてみせます。」  先日の書類によると今回は戦闘になる確率が高いですが今、北は戦争で無理をしたせいでかなり力を落とし、東は先日の内戦がまだ落ち着いていません。  なので、まずここに太刀打ちできるほどの戦力は割けないでしょう。  しかも馬車の周りはフォード様を始めとした精鋭ぞろい。お兄様も守ってくれる…。出番はないかもしれません。  だとしても、この任務はお兄様やフォード様が僕を信じてくれたからこその、人を守れるだけの力があると信じてくれたからこそのものだと思います。  そう思うとお兄様を守るために前線で戦えないことは残念ですがでこの任務に対しての、僕自身への不安の気持ちを押し潰すように、喰らい尽くすように熱い気持ちが湧き上がってきました。
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