哀悼

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 長らく臥せっていたせいで、ザクロはしばらくの間、身を起こすのにも苦労した。目眩はもちろんだが、思った以上に筋力が落ちていた。  口から食べ物を受け付けるにも慎重を要した。うっかり水を飲みすぎて、あふれるように吐き出した時は、周囲よりも本人の方がびっくりしていた。  それでも、少しずつながら動ける範囲を広げ、もとの体力を取り戻していった。  外の偵察に行っていたシロガネから、港の片付けに船が戻ってきたと聞いて、ザクロが外に出てみたいと言い出した。港に出るまでの体力は、さすがにまだない、とツキシロが(いさ)め、とりあえず霧の谷まで出てみようと提案した。 「二人で、大丈夫?」  フレアが心配顔で、牡鹿の背に乗るツキシロとザクロを交互に見た。 「ここんとこの様子見てて、ぶっ倒れることはなさそうだから平気平気。それより、フレア、ずっと治療に専念してて疲れたろうから、テンと一緒にちょっと休んでてよ」  ツキシロは、自分より背が高いザクロを後ろから抱きかかえるように支えている。 「メッチャ居心地悪いんだけど……」  ザクロが口を尖らせて文句を言った。 「色々当たる……」 「あ、傷? 触ってる? 痛い?」 「いや、……そうでなくて」  ザクロの治療にあたる間、動きやすいようにとツキシロもフレアも薄手の軽装だった。  意図を察したツキシロは、ギュッと眉間に皺を寄せた。 「気にする元気があるだけ上等だ。我慢しろ。それとも元気よく落馬してケガを増やしたいか?」 「落馬に元気もクソもあるかよ……」  ザクロのボヤキを無視して、ツキシロは牡鹿の脇腹を軽く蹴った。ゆっくりと歩き出す。  緑の中に沈んでいく二人の背中を見送りながら、テンが溜息をついた。 「なんのかんの言って、やっぱり仲がいいんだな」 「ほんと。……ザクロさん元気になって安心したよ。それにしても、シロネリ様んとこで勉強しててよかったー。何も知らなかったら、ザクロさんをちゃんと治療できてたかどうかわからない」 「フレア、お疲れ様。今日は、二人が帰ってくるまでゴロゴロしていよう」 「だね」  テンとフレアは連れ立って森の広場まで戻っていった。
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